第5話 猛暑日
俺は教室へと戻った。そこでは四人がニヤニヤしながら俺のことを待っていた。
「おい!どーだったんだよ!」
「OKもらったか?!」
俺の表情で察しろアホども。
「もうすでに他の奴と行くとよ。」
「そ、そうか…。」
「なんだつまんねーの。」
「リューセーじゃダメだったか〜(笑)」
「うっせー。じゃ、俺帰るわ。」
別に川原さんと一緒に花火が見れるなんて思ってもなかったし断られることくらいわかってたけど、どこかで奇跡を信じていた自分がバカバカしく思える。だから俺は少しイライラしているんだ。
下駄箱で靴に履き替え、学校を出て、駅まで歩いた。ふと昨日寄ったコンビニに目がいった。うん、アイス買おう。
コンビニに入り、アイスコーナーに行こうとした時…
「あれ?リューセー!」
「ん?あ、中村さん…。」
また、彼女に会った。
「なにしてんの〜?もしかしてアイス買おうとしてる?」
「あぁ、そうだよ。」
「私も!なんか、昨日リューセーと食べたアイスがすごい美味しかったから、つい今日も寄っちゃったんだ!」
「俺もなんだよ(笑)昨日のアイスがうまかったなって思って(笑)」
奇遇ってやつ…か。今日も二人でコンビニの外のベンチでアイスを食べた。今日は同じ高校の生徒がチラホラ俺たちの前を通る。ちょっと目線が気になるな…。
「あ〜、おいしっ!(笑)」
彼女は今日もおいしそうにアイスを食べる。
俺が無言でアイスを食べていると彼女が喋り出した。
「ねぇ?どうしたの?今日リューセー元気ないじゃん。」
「え?そうかな。」
「うん。なんかあったんでしょ?どうしたの?」
「いや…その、実はな、今日罰ゲームでクラスの川原さんって人を花火大会に誘ったんだよ。罰ゲームでな!それで、断られたんだ。まークラス1の美人って言われてるからさ、断られて当たり前なんだけど。そこなんだ。俺は断られることを知りながら、『もしかしたら』って心のどこかで思ってたんだ。だから、その『もしかしたら』を信じてた俺がバカバカしく思えて来て、それで…。」
俺は話した。すると彼女は言った。
「ふーん。リューセーはその川原さんって子と本当は花火見に行きたかったんだね。」
「え、いや、別に…ただ、なんていうか、その…。」
「諦めていいの?」
「いや、だから諦めるとかそういうのじゃあなくて…。まぁ、もういいんだ。今年は花火見なくて。」
「ダメだよ!夏休みに花火を見ないなんて絶対後悔するよ!」
彼女は急に強気になった。
「別にいいよ、今まで散々見て来たし。」
「本当にいいの?」
「うん。いいんだ。」
…すると彼女は言った。
「そう、じゃあ私と見に行かない?」
「え、中村さんと?」
「うん!」
彼女はニッコリ笑った。
「あぁ、別にいい…けど。」
「じゃあ行こっか!」
俺に気を使ってくれたのかな。
昨日知り合ったばかりなのに、優しいな。
「でも、中村さんはいいの?他に行く人いるんじゃないの?」
「いいの、ちょうど誰とも約束してなかったから!」
「そう、なんだ。」
「じゃあ6時半にここに集合にしよう!」
彼女はそういうと、立ち上がり、アイスのゴミを捨てに行った。俺もゴミを捨てた。
そして俺たちは駅で一旦別れた。
「6時半だよ!6時半!」
彼女は念入りにそう言った。
「うん、わかってるよ!じゃあね!」
ホームにはもう電車が来ていた。俺は走ってその電車に飛び乗った。
俺は電車に揺られ、またいつもの景色を見る。心にはモヤモヤしたものを抱えている。
まさか急に彼女と花火を見に行くことになるなんて予想もしてなかった。でも、なんとなく今年は誰か、異性の人と行くような、そんな感覚があった。それが『中村 葉月』だったんだろう。
そういえば中村さんは浴衣とか着てくるのかな。聞けばよかった。俺浴衣着てった方がいいのかな。
さっきまでのイライラがいつの間にかワクワクに変わっていた。
大山町に着き、速攻で家まで自転車を走らせた。目の前に広がる田んぼや山をカンッカンッに日光が照らしている。でも風は一段と気持ち。全力で自転車を漕ぐ俺は、どこか笑顔を浮かべていた。
「ただいま〜!」
「おかえりー。どうだったー?学校。」
母さんはまたテレビを見ながら言ってる。
「ああ、いつも通りだよ。」
「あらそう。あ、ご飯そーめんね。」
「また?!」
もうこれで4日連続…しかたないか。
「いただきま〜す!」
「っで〜?あんた今日花火大会行くんだっけ?」
「あー、行くよ。」
「行くの?カズ君たちと?」
「いやー違う。」
「じゃあ誰よ。え、まさか…。」
「なんだよ、誰だっていいだろ。」
「まさか、まさか、女の子じゃないわよね?!」
あぁ、めんどくせぇ!
「友達とだよ!」
「ふ〜ん。友達ねぇ〜(ニヤリ)」
それ以降は完全無視した。
今日も天気予報が流れていた。
「えー、今週いっぱいは全国的に猛暑日が続きそうです。夏晴れ、といったところでしょう。今後とも熱中症には十分お気をつけ下さい。」
夏晴れ、か。
「ごちそーさまー。」
「リューセー、あんた浴衣着てく?」
「あー、せっかくだし着てこうかな。」
「ほれ。」
母さんは引き出しから浴衣を取り出した。
「サンキュー。」
俺はその浴衣を持って自分の部屋に戻った。
何時に家出よう。5時半だな。それまで何しようかな。寝るか。
俺の部屋はエアコンがなくて扇風機1台で夏場を過ごさなきゃならない。エアコンあったら最高なのに…。
俺はそう思いながら床に寝っ転がった。
昼は朝みたいに日が入ってこない。ふと風が俺の部屋を通り抜ける。あ〜気持ちい。
セミや虫の鳴き声の中、俺は昼寝についた。
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