第4話 8月10日

窓から差し込む日差し。夏の日差しっていうのは早朝であっても俺を眠りの世界から現世に連れ戻す力を持っている。

眩しさのあまり目を開けると、もう朝になっていた。セミはすでに鳴き始めている。

今日、登校日…めんどくさ。

まだ意識が完全に戻っていない状態でありながらも、布団をたたみ、階段を下った。

洗面所に着くと、冷たい水で顔を洗い眼を覚ます。ここでかなり意識が戻る。トイレを済ませリビングに行く。

もうすでに親父は農作業に出ている。キッチンでは母さんがおにぎりを作っている。

「おはよー…。」

「やっと起きたのね。はやくしないと遅刻するわよ!」

「はいよー…。」

「はい!これ食べな!」

そう行っておにぎりを二つくれた。

「いただきまーす…。」

「もう、もっとシャキっとしなさい!」

なんで母親って朝っぱらからこんな元気なんだろう…。

おにぎりを食べ終わり、少ししてから歯磨きをした。歯磨きを終えると部屋に戻り制服に着替え、出発だ。

家を出る際にふと日替わりのカレンダーが目に入った。【8月10日】…。

「行って来まーす!」

「はーい、いってらっしゃい!」

今日は朝母さんが家にいる日だから母さんの自転車に乗って行った。さすがに今日も歩きだったらやばかったな。

自転車で無人駅まで向かう。やっぱり歩くのと自転車では、駅までの時間も違うし、風の感じ方や、景色の見え方も少し違う。

10分程度で駅まで来た。近くの駐輪場に自転車を停めて駅で電車を待つ。

数分後に電車が来た。乗り込むと中にはすでに同じ高校の制服を着た生徒の姿。今日こそ登校日だな。俺は一安心した。

電車の窓から青空が見える。今日も快晴だ。

電車に揺られながらどんどん大山町から離れていく。

現代の技術ってのは凄いもんで、あっという間に北川駅まで来た。

電車から降り、辺りを見渡すと同じ高校の奴らの姿がちらほら見える。ここでまた一安心した。駅から学校に向かい歩くこと数分。

突如背後から声をかけられた。

「リューセイおはよっ!!」

うっ…元気一杯に背中を叩かれた。振り向くと中村 葉月だった。

「お前かい、誰かと思ったわ。」

「後ろ姿ですぐわかったよ!」

「あーそう。あ、おはよ。」

「いや、おはようのタイミング遅っ!」

これまた朝から元気いいな(笑)

「それじゃ、私先行くね!バイバイ!」

そう言うと彼女は走り出して行った。

「あ、じゃあ…な。」

もう俺の声は届かない。

「リューセー…おはよう…(ニヤリ)」

また後ろから声がした。この声はすぐに誰だかわかった。イッチーだ。

「なんだよキモチワリィ。」

「なんだよじゃないだろ!誰なんだ今の女の子は〜?(ニヤリ)」

「いや、あれは、その、友達?だよ。」

「ふーん。友達ねぇ〜。」

なにニヤニヤしてんだこいつ。

「いいのか?」

「あ?何が?」

「リューセーお前、川原さんのこと狙ってんじゃなかったのか?(ニヤリ)」

川原さんってのは、いわゆるクラスのマドンナ的存在の子のことだ。

「はぁ?狙ってねーし。」

「嘘が下手くそだなお前は(笑)いつも授業中ガン見してるだろ?」

「な、ガン見なんかしてねーよ!たまに、チラ見くらいだよ!」

「チラ見はしてるんだな、ははっ(笑)」

「いや、あ、…。」

ハメられたぜ。

「もういいから早く学校行こうぜ。」

俺はそう言って誤魔化した。

学校に着くとクラスメイトと今日までの夏休みについて色々話した。

そして、今日の花火大会についての話は盛り上がった。みんな彼女や友達と行くらしい。

「イッチー、お前は花火大会行くの?」

と俺が聞くと。

「高校生にもなって男だけで行くってのもな?あ、リューセーお前、川原さん誘ってみろよ!(笑)」

「は?無理に決まってんだろ。あんな美人さんはもうとっくに他の男が予約済みだろ。」

「いや〜わかんねーぞ?ワンチャンあるかもよ?」

なんだよワンチャンって。

「いや、無理だね。」

「いけよ!お前割とイケメンだしさ!誘ってみるだけ、な?」

「いやいや、無理だっつーの。ならお前がいけよ。」

「じゃあゲームをしよう。おい!みんな集まれ!」

イッチーはそう言うとイツメンを集めた。

「いいか、リューセー、ミチオ、フウリ、カイト、みんなよく聞け。これからこのペットボトルを教室の端っこのゴミ箱に投げ入れるゲームをする。最後まで入らなかったら、そいつは罰ゲームとして、あの!川原さんを今日の花火大会に誘う!!」

「えぇーーマジかよ、やんねーよそんなのアホか。」

「いやいや、待てミチオ!よく考えて欲しいのはな、もし、誘って成功したらという話だ!最高じゃないか?あんな美人と一夏のアバンチュールを…あははは(ニヤリ)」

「おい、大丈夫かイッチー。」

みんなあきれてる。

「いや、まて!たとえだな、失敗してしまったとしても恥じることはないというのがこのゲームの最大のポイントだ!なぜなら、失敗したところでこれは罰ゲームだったという言い訳ができる。わかるか?これは失敗しても別に恥じることはない、かつアバンチュールチャンスがあるという史上最高のゲームなのだ!」

「あ〜でも言われてみるとそうだな。」

「ミチオ!なに納得してんだよ!」

俺がミチオにそう言うと、フウリが俺に言った。

「いやリューセー、これはチャンスだぞ!だよな?カイト!」

「あぁ!チャンスだな(笑)」

駄目だ、みんなイッチーワールドにのまれちまった。俺だけ参加しないことはできず、必然とゲームがスタートした。

一番手は俺。二番手がフウリ。三番手がミチオ。四番手がカイト。ラストがイッチーだ。

俺は振りかぶりゴミ箱めがけて投げた…。

いい円を描きゴミ箱に入……らない!ま、一巡目はみんな入らないだろう。

スポンッ!「よっしゃあ!」

スポンッ!「よし!」

スポンッ!「さすが元野球部の俺!」

あれ。なんでみんなそんなうまいの。

なんと俺の後の三人が立て続けにいれる。

そして、最後のイッチーだ。こいつはあんまスポーツタイプでもないし、多分、入らないだろう。

イッチーは大きく振りかぶって投げた。

「うぉぉぉお!!入れぇぇええ!!」

スポーンッ!「ふふふ、当然の結果だな。」

まさかの俺以外全員一発。マジかよ。

「っということで!リューセーさん!いってらっしゃ〜い!(いってらっしゃ〜い)」

はぁぁ…ついてね〜。みんなうますぎだろ。


キーンコーンカーンコーン…

「はい、じゃあみんな、今後の夏休みも規則正しく過ごすように!」

先生がそう言い、挨拶をして登校日が終了。みんな帰り始める。

「(おい、リューセー!今だ!)」

イッチーが小声で俺に言った。くそ、罰ゲームだからな。行くか。

俺は帰り際の川原さんのところに駆け寄った。

「あ、あの!川原さん!」

「ん?矢野君、どうしたの?」

「あの…その…。」

あぁダメだ、緊張する…。いや、いくぞ!

「きょ、今日の花火大会なんだけどさ!その、もし、良ければ、俺と、その、一緒に行ってくれないかな?!」

い、い、言ってしまった…。チラッと川原さんの顔を見ると。なんとも辛そうな顔をしていた。そこで俺は察した。

「ご、ごめんなさい。私すでに他の人と一緒に行く約束をしちゃったの。本当にごめんね。」

そう言うと、川原さんは走り去って行った。

まー、そりゃそうだよな。何やってんだ俺、くだらねぇ。







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