第2話 現実の国のアリサ
「おはよう…。」
チャイムと同時に席に着く。教室を入って2列目の、一番前の席。ギリギリセーフ。
「秦。珍しいね、遅刻。」
「ギリギリセーフだから!!」
「5分前に着席するのが理想だけどね。」
隣の席の学級委員長が声をかけてくる。三つ編みに眼鏡という、古典的な優等生。だが真面目そうにみえて実は冗談の通じる。規則に厳しいところを除けば、案外ふつうな人だ。
「はい、席に着け。遅くなって悪かったな。」
担任が教室に入ってきたのは、HMの始まりを知らせるチャイムの約5分後だった。おかげで、全力で自転車のペダルを回してきたものの、息は整っている。運が良かった。
だが、すごく眠い。夢の中で大冒険をした後なんだ。体力は問題無いが、精神的疲労が回復できていない。これが毎晩続くとなると、いつまで俺の気力が持つか…。
想像以上に早く見つけ出さなくてはいけないかもしれない、夢の中で狂人を。
「はい、突然だが編入生だ。紹介するな。」
嫌な予感がした。
夏休みまで2週間という、この変な時期の編入生。そして、昨日の出来事。
フィクションでありがちな話だ。これは現実だが…昨晩のこともある。ワンダーランドへ招かれるこの世界で、常識というものはあまり信用できないだろう。
「はじめまして。伏木アリサです。急な事情で編入することになって、私も焦っていますので、どうか優しくしてください。」
淡々と、夢の中と同調で。
かわいい女子だ、と男子が騒ぐ。それは同感。だが…こんなことってあるのか。目を合わせないように、ぼんやりしていよう…。
「一番後ろの空いてる席な。」
担任が示したのは、エアコンの真下の席。いいなぁ。
「私、少し寒いのが苦手で。冷房が直接当たる席はちょっと…。」
「あ、じゃあ私が代わりますよ!」
隣の席の委員長が挙手をする。
「お、ありがとう。あそこならいいか?」
「はい。ありがとうございます。たすかります。」
えぇー…。まじですか。
でも、夢の中と服装違うし。目を合わせなければ、きっと気付かれないだろう。
「よろしくね、ハッター。」
伏木さんは席に着いた直後に、こちらに笑顔を向けた。
前言撤回。バレてるじゃねぇか。
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