第46話 宗一郎とゆりかの友人たち

 「ゆりかさん!」

物凄い勢いでゆりかに駆け寄ってきた人物が、そのままゆりかに抱きついた。

「千春さん!」

「も〜!

和田君とはぐれちゃったんだって?

相馬君も中に探しに入っていったよ」


 あら?思ったより大事になっていないか。

千春がいつもより早い口調で慌てているのがわかった。

ゆりかは千春を宥めようと肩に手をおいてさする。

「心配させてごめんなさいね。

お化けに足を掴まれたせいで、びっくりして逆走しちゃって…」

抱きついていた千春がパッとゆりかから離れた。

「やだーなにそれ!

それで迷子?」

今度は目の前で面白そうにカラカラと笑いだした。

千春は怪人百面相みたいだ。

よく表情が変わる。


 「悠希君とはぐれた挙句、腰を抜かしてへたり込んで動けなくなってしまって、それでここに連れてきてもらったの」

ふと千春がゆりかから視線をそらすと、ゆりかの後ろで2人の様子を傍観する宗一郎がいた。

それに気づいたゆりかも後ろをチラリと見る。

ゆりかと目が合うと宗一郎はクスリと笑った。


 「こちらの人は?」

不思議そうな顔で千春が見ている。

「助けてくれた人よ」

「1年C組の江間宗一郎です」

「助けてくれた人!

それは、ゆりかさんが大変お世話になりました!」

千春がペコリと頭を下げる。

「助けたなんて、大したことしてないよ」

宗一郎が胸の前で手を横に振る。

「ううん、宗一郎君がいなかったら、私失神してたかもしれないわ」

「それこそ俺の方が失神させそうだったような……」

「あ、そういえば……」


 ふと最初に宗一郎が死神として現れた時の状況を思い出す。

「「ふふふ」」

2人同時に笑ってしまった。

なんだかこうゆう瞬間に胸がくすぐったく感じてしまう。

なんとゆうか淡いフワフワした感じ?


「なんか、やけに打ち解けてない?」

千春が変な顔をしながら、じっとゆりかと宗一郎を見つめていた。

ゆりかはハタと現実に引き戻される。


 「ゆりかちゃんとは元々知り合いなんだ」

「ゆりかちゃん?!」

千春が大きな声を上げた。

みんなそこに驚くのね。

そんなに『ゆりかちゃん』って変かしら?

「うん、図書館で知り合ったから、『天下の高円寺様』なんて知らなかったんだ」

宗一郎がゆりかを見て笑う。

「そ、そう。

私でさえゆりかさん呼びなのに、強いわ」

「あら、千春さんは私と悠希君と貴也君にもタメ口じゃない」

「そもそも友達に敬語は変よ。

ゆりかさんと私は友達よ」

「じゃあ、さん付けも変じゃないの?」

「女子はさん付け、男子は君付けでって幼稚園時代から先生たちに教え込まれてるのよ……」

3人で輪になって話していると、控え室の内側にあるドアが騒がしくなった。

お化け屋敷の視聴覚室と繋がるドアだ。


 は!うっかり話し込んでしまった!

まさかと思い、ちらりと視線を恐る恐る向けると、先導役のお化けと3人のお化けを引き連れた、悠希と貴也の姿があった。


 「もしかしてお友達?」

「そうよ」

宗一郎に聞かれ、ゆりかが微妙な顔をする。


 先程までは宗一郎と2人きりだったから、マズイ気がしたが、今は千春がいる。

3人で居たなら、宗一郎については余計な詮索もされないかもしれない。


 「ゆりか」

目の前の人物に低い声で自分の名を呼ばれ、ゆりかはビクリとする。

……目を合わせるのが怖い。

宗一郎に会えた喜びと驚きで浮かれてすっかり忘れていたが、よくよく考えたら、『置いてかないで』とか言ったそばから、自分が悠希を置いて逃げていたのだ。

最低ではないか。

自分のやましい気持ちと罪悪感から、目が合わせられない。


 悠希がツカツカと歩いてくる。

「おい」

「は、はい」

「……なんで俺を見ない」


 気づけば自然と目が明後日の方向を向いている。

「……怒ってるわよね?」

ちらりと目だけで悠希を見る。

顔が怖い。

眉間に皺が寄っている。

「ああ」

 ひー!やっぱりー!

背中から汗がブワッと吹き出した。

「ごめんなさい!

悠希君を置いて走って逃げるなんて!

ごめんなさい!!」

ここは謝り倒すに限る!

素直に謝ろう!

グダグタ言い訳しても話がこじれるだけだ。

勢いよく頭を下げると、悠希がため息をついた。


 「もういい。頭を上げろ」


 あら?案外簡単に許してもらえるの?


 虫の良いことを考えながら、それでもゆっくり恐る恐る頭を上げると、いきなりおでこにビシっと衝撃が走った。

「「「「「!!」」」」」

「あいったぁー!何すんのよー!」

ゆりかが大きな声が上げた。

宗一郎や千春、周囲にいたお化けに至るまでみんな驚いた顔をしている。

さすがの貴也も呆れたような顔で見ていた。

「悠希、今のは良い音し過ぎだよ」

「ふん、デコピンだ。デコピン」

悠希がすっきりしたような顔をして腕を腰にあてている。


 こいつー!

女子に手をあげるだなんて!

将来DVでもしたら即離婚よー!!


 「ゆりかちゃん大丈夫?」

宗一郎が心配そうにゆりかの顔を覗き込んできた。

「だ、大丈夫。

……おでこよりも心が傷んだだけ」

「なにが心が傷んだだよ。

大体俺のデコピンは音の割に痛くない筈だぞ。

朝も言ったけど、俺がゆりかを傷つける訳がないだろ……て、お前誰だ?」


悠希の視線が宗一郎に向けられる。

ちょうど悠希と対峙するような位置に宗一郎が立っていた。

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