第47話 記憶―悠希と宗一郎―


 数秒沈黙が流れる。


 「見たことない顔だな」

「外部から来たからですよ」

お化けの1人が悠希にささやいた。

なんだかその姿がゴマをする取巻きみたいだった。

滑稽だ。

まるでテレビや漫画で見たことがあるような、いかにも取巻きな姿だった。


 たまたまなのか、ゆりかたちの学年にはゴマをするような人種はあまりいない。

ゆりかと悠希と貴也が一緒に行動してたからか、はたまた3人共群れるタイプじゃないからか。

気付けば周囲から孤立し、畏怖される存在になっていた。


それもそれでどうかと思うが、それがボッチの原因なのかもしれない……。


 「ゆりかさんを助けてくれたんですって!」

千春が宗一郎の腕を掴んだ。

「ゆりかを?」

「腰抜かしてたところをここに連れてきてくれたらしいわよ」

「……ふーん、ならお礼を言わないとな。

どうもありがとうございます……」

悠希が腰を折って感謝の意を伝えようとすると、取巻きお化けたちが止めに入る。

「和田様、そんなことしないでください!」

「係りの仕事ですから!」

「宗一郎、お前ぼーっとしてないで!」

「ええ?」

和田様の取巻きお化けと化したクラスメートに宗一郎も驚いている。

「あーもう、うるさいな。

少しだまっててくれないか?」

悠希が心底嫌そうな顔で取巻きを見ると、取巻きたちはピタリと動きが止まった。

ゆりかに睨まれた時といい、なんて権力に弱い人たちなんだろう。


 「ゆりかを助けてくれてありがとうございます」

「お世話になりました」

悠希に続けて貴也もお礼を言う。

「ちょっと、みんな、私の保護者じゃないんだから」

「保護者も同然だろ。

なにせ俺はお前のいいな……」


 「あーーー!」

ゆりかが叫んだ。

いいな?いいな?

今、宗一郎君の前で、いいなずけって言おうとしませんでしたか?

いつかは知られるだろうけど、今ここで聞かれたくない。


  「どうしたの?ゆりかさん?」

鋭い貴也がゆりかの異変を感じとっていた。

「あ、あの……あれあれ!」

悠希の言葉を突然遮って叫んだはいいが、ちょうど良い適当な言葉を思い出せない。

「あれよあれ!」

身振り手振りでなにか捻り出そうとしていると、千春が「あっ」と気づいた。

「あの本を失くしちゃったの?」


 あの本!

そういえば、千鶴様に持たされた同人誌が手にない。

気づいた瞬間にショックで目の前がぐらりとする。

せっかく手に入れた同人誌が……。

なんて大失態!!

「せっかく千鶴様がくれたのに……」

ショックで打ちひしがれていると、みんながすかさずフォローしてくれる。

「お化け屋敷の中でなくしたのか?

それなら、俺のをやるから気にするな」

「私のあげるよ?

家に帰ればたくさんあるはずだから」

「お化け屋敷の中ならすぐ見つかるんじゃない?

なんなら僕のでもいいよ」

みんな優しい。

いや、それ以前にさほど大事にも思ってないのだろう。

貴重な本なのに!!


 そんな中、深刻そうなゆりかを見た宗一郎も気にかけてくれる。

「お化け屋敷の中なら俺が後で探しとくよ。

どんな本?」


 「「「「…………」」」」

一同押し黙ってしまった。

とてもじゃないけど、言えない。

『イケメン学園』なんてタイトル。

4人とも同じことを考えていたのか、なんとも言えない複雑な顔をしている。

どうして落としてきた、私……?!

軽く自己嫌悪に陥った。


 そんな中いち早く貴也が動き、宗一郎に本の入っている紙袋を見せた。

「これと同じ紙袋に入ってるから、この袋を見つけたら教えてください。

連絡先はここに」

その場で連絡先をサラサラっと書いた紙を渡す。

「紙袋ね。オッケーです!

みんなも見つけたら、連絡ね」

宗一郎が紙を受け取ると、お化けたちに目配せをした。

するとお化けたちもうんうんと頷く。

大々的に捜索はしないでくださいね。

あとは中身を見ないでください。


 「全く色々世話が焼けるヤツだな」

「本当に。ゆりかさんといると色々なことが起きて飽きないよ」

「全くねー」

「人をトラブルメーカーの様に言わないでくれない?」

悠希と貴也、千春が呆れて顔をしているので、ゆりかは不満げな顔だった。

確かに今日はみんなに迷惑を掛けたが、いつもはこんなことはない……はずだ。

プウと頰を膨らめると、「ほっぺたリスみたい」と宗一郎にクスリと笑われた。


 やだ、見られた!

敢えて指摘されると恥ずかしい。

ゆりかは両頰に手をあてて隠す。


 そんなゆりかの様子を眉間に皺を寄せて見つめていたのが悠希だった。

悠希の様子に気づいた宗一郎が悠希の方を振り向き、ニコリと笑う。

「ああ、そうだ。

そういえばさっき誰だって訊かれて挨拶してなかったね。

俺は中等部1年の江間宗一郎」

思い出したように、突然のことで一瞬悠希が躊躇う。

「あ、初等部6年、和田悠希です」

「よろしくね?」

宗一郎が悠希に握手を求めると、悠希も手を伸ばした。


 その瞬間、ゆりかの頭の中にハッキリと鮮明に、ある光景が浮かんだ。


 あれ…この場面知ってる。

見たことがある。


 取巻きに囲まれる悠希と宗一郎が自己紹介をして握手するシーン。


 私…知ってる。

デジャブ?

でもデジャブにしたら、おかしい。

私、知っているんだもの。


 前世でやった記憶がある乙女ゲームと一緒だったこと――

あの乙女ゲームの攻略対象者の名前がワダユウキとエマソウイチロウだったこと――――


 ……なんで今まで気付かなかったんだろう。


 和田悠希と江間宗一郎はゲームの中の名前だ。


 あのゲームは確か………………確か………


「イケメン学園…」

無意識に口から漏れる。



ゆりかのその声に貴也が振り向いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る