第5話 出会い ―相馬貴也―
翌日の幼稚園登園。
良家の子女が通う幼稚園のため、普通の幼稚園と違い園バスなんてものはない。
みんな各家庭ごとの送迎だ。
運転手付きの車での送迎が半数、あとは自家用車で親が運転しての送迎か徒歩で親が付き添っての登園が半数。
ちなみにゆりかは今日、運転手付きの車できていた。
運転手の
黒塗りの車を降りると、後方に一台の車が着いた。
やはり黒塗りの車だ。
すると降りてきたのは、色素の薄い茶色の髪をした、綺麗な顔立ち男の子だった。
わあ、綺麗!天使みたい!
ゆりかは一瞬ぽかんと口を開けて見惚れてしまった。
男の子はゆりかに気付いたのか、「おはようございます」と、これまたにっこりと愛らしい天使の微笑を送った。
突然知らない子に挨拶されて思わず戸惑ったゆりかは、「お、お、お、おはようございます!」とどもってしまった。
動揺丸わかり。
恥ずかしい。
もしかしたら少し赤くなってしまったかもしれない。
耳が熱い。
するとその男の子に後ろから和田悠希が現れた。
同じ車から降りてきたのだ。
「あ!誰かと思ったら、おまえか!」
相変わらず偉そうな口ぶりの彼にゆりかは一瞬眉を顰める。
「ごきげんよう、悠希君」
「ああ、おはよう!ゆりか」
こちらが雛形通りの挨拶をすると、悠希も挨拶を返した。
ふむ。口は悪いけど、一応挨拶はできるのか。
にしてもなんだか朝からニコニコしてるな。
ご機嫌坊やめ。
子供らしい笑顔だけは可愛いぞ。
「その子は?」
さっきの天使が悠希の肩越しに訊ねてくる。
「友達のゆりかだ!
昨日友達になった!」
えっへんとやたら自慢気な悠希。
お前の一方的な友達宣告だろう!
とツッコミたかったが、あくまでも大人な対応で耐えた。
相手は4歳児。
同じ土俵に立っちゃダメだ。
頭の中は大人なのに、たまに制御できない感情が表れるときがある。
体の年齢に見合った本能的な感情だろうか。
えーい!
そう高円寺ゆりかは令嬢なのだ。
きちんとしなければ!
押し寄せる感情を振り切った。
「高円寺ゆりかと申します。
よろしくお願いいたします」
初対面の相手には礼儀正しくがモットーなので、きちんと頭を下げて挨拶をする。
「…お、おう!」
悠希が一瞬こちらの丁寧な姿勢に一歩引いたのは見逃さなかった。
動揺しろ!
そして、おまえは昨日からの無礼行に気づくのだ!
私は心の中で怒っているんだぞ!
しかし悠希は次の瞬間にはいつも通りの自信のある顔に戻ってしまった。
むむ、持ち直しが早い。
「俺は
「知ってます」
ゆりかは笑顔で即答した。
お前の名前は昨日から知っている!と、心の中で悪態をつく。
ゆりかの言葉を聞くと、悠希は昨日と同様に嬉しかったのか、子供らしい笑みで、ニッと笑った。
続けて肩越しにいる天使を指差す。
「こっちは従兄弟の
貴也はりす組で俺とゆりかとはクラスが違うけど、よろしくな!」
悠希の後ろから出てきた貴也は、初めて見たときよりもさらに柔らかい笑顔をゆりかにむけた。
「
ゆりかさん、よろしくね」
握手を求める動作も優雅さが半端ない。
ゆりかはまたもや呆然と見入ってしまう。
ああ、どこまでもできた天使なのだろうか…!
そして将来はジェントルマンな予感!
アラフォー主婦のキュンキュンは止まらなかった。
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