第4話 家族との食卓

 幼稚園初登園の日の夕食。


 高円寺家のダイニングは白のダイニングテーブルとそれに合わせて、背もたれが花柄で脚部分は白の椅子が並べられている。

ヨーロッパの貴族のようなアール・デコ調のコーディネート。

母の趣味である。

 その食卓に父、母、兄、私が座っている。


 ゆりかは大好きなハンバーグをほおばった。

さすが高円寺家お抱え料理人、吉屋よしやの作るハンバーグ!

肉汁がジュワ〜っと凄い!

どうやったらこんな風に作れるのかしら?

今度聞いてみようかな?

ノートにレシピをメモりたい。


 生まれ変わって胃が若返ったおかげで、肉料理が美味しく食べられる!

パパ、ママももう30代だから、こってりよりさっぱり派かしら?

デミグラスより和風ハンバーグのがいい?

でもお兄様はデミグラス…いや照り焼きか?


 ほおばる姿は愛らしい4歳児であるが、思考回路はどうしてもアラフォー主婦である。


 「ゆりかはハンバーグをとても美味しそうに食べるね」

父がにっこり笑い話しかけた。

「はい!吉屋のハンバーグは絶品です!

私も作ってみたいです!」

「あらあら、ママはお料理しないのに、ゆりかちゃんはお料理に興味があるの?」

何か母は不満げである。

「ゆりかはすごいね。

では今度吉屋と一緒にやってみるといい。

まだ包丁や火は危ないから、それ以外を手伝わせてもらうようにね?

作ったらみんなに食べさて」

父の優しい言葉にゆりかは目を輝かせた。


 おままごとじゃない!嬉しい!

てか、私、包丁も火も扱えますよ!

たぶんママは熱々な油の中に水を注ぎそうだけど、私は間違ってもそんなことしませんよ!


 そこへ横槍が入った。

兄の隼人はやとだ。

ゆりかより5歳年上の9歳。小学3年生。

どうも噂だとI.Qがベラボーに高いらしい。


 「お父様、ゆりかには料理よりも別のことをやらせた方がいいですよ。

ほら、見て!テーブルマナー!

あんな大口を開けてハンバーグをほおばるなんて、両家の子女らしくありません!

お茶の手習いじゃ、足が痺れたってひっくり返るし。

この前なんて、目を離せば庭の木に登って、降りれなくなったって大泣きしてました!」


 あーあーあー! お兄様うるさい。

 お茶なんて前世じゃ習わなかったし、足が痺れて泣きたいのを我慢したあげく、立ち上がったら、ひっくり返ったんだよ。

頑張ったんだよ?あれでも。

 木登りは好奇心に駆られたんだ。

大人になったらできないもんね!

子供のうちの特権でしょ?!


 なんで喜んでいる最中にそんなことを言うんだと、うらめしそうに兄を睨み付けると、父が宥めるように間に入った。

「マナーは毎日にことだ。

追い追いできるようになるよ。

ただ、木のぼりはいただけないね。

確かにあのときは肝を冷やしたよ。」


 そう、先日庭の木に登った時のこと。

4歳になった身体は日増しに色んなことができるようになって、嬉しかった。

こんなこともできる!と良い気分で高いところまで登り、「やっほー」なんて庭を通りかかった兄に声をかけてしまったのが運の尽き。

ギョッとされ「危ない!」とひどく怒られた。

そして慌てて降りようとしたら、あまりの高さに急に足がすくんだ。

その後は降りれないと大泣きし、屋敷中を巻き込んだ大騒ぎとなった。

 結局は庭師の長野ながのが高い梯子をかけてくれて、長野によって救出されたという情けない話だ。


 もう2度と木には登りません。

はい、すみません。


 ゆりかがシュンとしてると、母が話を切り替えようと「そういえば」と笑顔を向ける。

「今日、ゆりかちゃんは和田様のところの悠希君とお友達になったのよね」


 げ!今度はあのガキンチョの話か!


「向こうから言ってきただけです!」

「何?和田財閥の息子君かい?」

父が食いつく。

「そうなんですよ!

とっても笑顔が可愛いらしい男の子で、

ゆりかちゃんとお友達になってくれるなんて、ママは嬉しかったわ」

母は花が綻ぶようにふふっと笑う。


 なんかいやだ。

いやな雰囲気。


 「私一日中クレヨン盗られたり、絵本盗られたり、おもちゃ盗られたり、終いには髪まで引っ張られたりしてたんですよ。

お友達なんてなれません!」

今日あった不快なことを力説してみたが、暖簾に腕押しとはこのことか。

「あら、まあまあ…それって!」

母が妙に楽しそうだ。

「……そ、そうか。

まあ、今度家に遊びに来てもらってみてもいいかもね。

ゆりかのお友達になったなら、私も会ってみたいからね」

父はなにか考え込んでいるのが、よくわかった。


 初の娘のスキャンダラスに動揺したのかしら。


 その横で兄の隼人がボソリと「墓穴を掘ったな」と呟いたのだった。

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