第3話 出会い ―和田悠希―
「ゆりかちゃん」
母親だという30代前半くらいの見目麗しい女性が手招きする。
「ママ!」
大きな瞳が可愛いらしい女の子は、母の姿を見るなり、黒髪のポニーテールを揺らして駆け寄り、抱きついた。
女の子の名は高円寺ゆりか、4歳。
政財界に名を連ねる高円寺グループの令嬢である。
この春、
初めて母と離れるのが寂しかったのだろう。
この時期よくある光景である。
「ママ、早くお家に帰りたい。家がいい」
そう言って母親に縋り付く姿は年相応に可愛いらしい。
「あらあら、ゆりかちゃんは甘えん坊ね」
母親は優しく抱きしめ、ゆりかの頭を撫でた。
が、抱きしめられた腕の中のゆりかは甘えた顔でもなく、かなりの顰めっ面をしていた。
今までずっと両親と5歳離れた兄、そして使用人たちに囲まれて生きてきた。
子供ばかりに囲まれるなんて今までなかった。
ましてや、ゆりかには前世の記憶がある。
大人の記憶が強いため、心はどちらかというと大人であった。
子供の世界がつらい…。
別に子供が嫌いな訳じゃない。
転生前は子育て経験もある。
けど他所のガキんちょを無条件に可愛がったり、子供と同じ目線で遊べる程、子供好きでもない。
自分の子だったから、必死に子育てして、四六時中一緒に過ごした。
あんな鼻垂らした子供とずっと一緒に遊べなんて、苦行よ!
明日からどうしよう…。
はあ…。
そんな時、1人の男の子と目が合う。
ひー!あいつ!
今日やたら絡んできたやつ!
おもちゃ、クレヨン、絵本、散々色んなもの奪い盗られた。
最初のうちは子供だし仕方ないなーなんて思ってたが、あまりにも繰り返すのでイライラが止まらなくなった。
幼児によくあるあるな、人の持ってるものが欲しくなるやつ!
それどころかポニーテールの髪までも引っ張っられた!
あれじゃあ、完全なるいじめっ子だ。
許せん!
「おい、おまえ!」
相手がズンズンと近寄ってくる。
髪でも掴まれるんじゃないかと身の危険を感じて、反射的に母の後ろに隠れたが、その男の子はそれを許さず、回り込んでゆりかの手を引っ張った。
思わずゆりかは怖くなり目を閉じるが、髪は引っ張っられることはなかった。
その代わりにゆりかの手には紙が乗せられた。
その紙にはへたくそな文字で《ともだち》と書かれていた。
そしてその下には2つの顔らしき絵が描かれている。
「これ、おまえに」
「…私に?」
ゆりかは突然のことにキョトンとする。
「友達の証だ!」
一瞬自分の母親を含む、周囲の大人たちが目を丸くしたが、みんなすぐに微笑ましそうに見ていた。
そして母からこんな言葉が
「
ゆりかちゃんの初めてのお友達になってくれたのね!」
男の子はゆりかの母の言葉を聞くと、照れくさそうにニカっと笑った。
なんとも子供らしい笑い方。
…って、えー!
こんなガキんちょと仲良くするのいやよー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます