夏が終わる
目を覚ました青年は立ち上がった。いつの間にか眠っていたようだ。夢の中で、あの日が再生されていた。
思い出した。あの後どうなったのかは思い出せないけれど、それは別に構わない。思い出せないということは、大して必要もないことなのだろう。
彼の足に蝉が一匹止まった。鳴こうともしないし、飛び立つ気配も無い。
手紙を書くのも止めにしよう。彼女はそんなことはきっとしなかったのだろうから。
青年は膝まで歩いてきた蝉を左手で握りつぶした。蝉になってここに帰って来たのなら、僕と一緒にいてほしい。
川まで歩く。蝉を握ったまま、彼は川へ飛び込んだ。
もうすぐ、夏が終わる。
僕らの夏 ねくらえ子 @forest_book
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