走り出す
少年ははるちゃんに手を引かれて走り出した。体中から汗が流れる。
二人の手汗が混ざってぐちゃぐちゃの手のひらは気持ち悪いけれど、不思議と手を離したいほど不快ではなかった。
「着いた」
ここの地域で一番深く大きくて有名な川。
はるちゃんが少年の手を離した。上着を脱いで道に放り投げる。その細い腕は、無数の青紫色の痣で汚れていた。
はるちゃんは少年を勢いよく押した。少年の体が草むらに叩きつけられる。
「私があの世に行くのを見送ってほしかったの。蝉になってここに帰って来るから、ちゃんと待っててよ」
はるちゃんは助走をつけて川に飛び込んだ。
細い体は一瞬で川の流れに飲み込まれて、やがて見えなくなった。
少年は立ち上がり、さっきまで繋いでいた左手を見た。汗まみれの手に雑草がたくさんついている。川に近づき、左手を水の中に入れた。汗と雑草を洗い流した。
少年は理解した。はるちゃんは絵日記を書きたかったわけじゃなかったことを。はるちゃんが考えた嘘と、逃げられなかった本当を。あの笑顔を。
もう、はるちゃんはいない。
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