冒険の始まり
はるちゃんの家に着いた。
少年がいつも通り庭にまわって二階の窓を見ると、はるちゃんはそこにいた。
「回覧板、届けに来たよ」
大声でそう言う。はるちゃんはいつも二階の窓から下を見てる。理由はわからないけど、とにかくいつもそこにいる。またいつも通り玄関に戻って待っていると、階段を降りてくる音が聞こえた。
「おまたせ」
「はいこれ、回覧板」
「ありがとう」
「今日、お母さんとお父さんは」
「お母さんは仕事、お父さんは…知らない」
「そっか」
はるちゃんの家は少しおかしかった。
はるちゃんの父親はいつも家にいないのに、仕事をしているわけではない。その代わり、母親が夜まで毎日働いている。
「相変わらず、喧嘩ばっかりだよ」
はるちゃんはいつも笑っていた。少年はそれが不思議だった。
「面白い話してあげようか」
少年はさっき母から聞いた話をすることにした。
「この時期って、死んだ人がこの世に帰ってくるんだって」
「それ、本当?」
「嘘っぽいよね、でも僕のお母さんが言ってたんだ。御先祖様が帰ってくるって。だから、僕の家は今お母さんが掃除してる」
「どうやって帰ってくるの?」
「それは…蝉になって?」
「面白いこと言うね」
はるちゃんはそう笑ったあとに、少年のほうへ向き直った。
「ねぇ、それ確かめてみようよ」
「どういうこと?」
「二人で秘密の冒険をしようよ。明日、またここに来て」
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