お盆の言い伝え

蝉の声と扇風機の音が聞こえてくる。

少年は窓から足を投げ出して扇風機の風をあびていた。冷凍庫にアイスを取りに行くのも暑さのせいでとても面倒くさい。

「掃除、手伝ってよ」

母にはたきで軽く頭を叩かれる。

「何で掃除なんかしてるの」

「お盆には、御先祖様が帰ってくるのよ。汚いお家じゃ失礼でしょう」

母にそう言われ、少年は目を見開いた。

「ほんとに?ほんとに死んだ人が帰ってくるの?」

「本当。お母さんが子どものときに、お盆の日に蝉が家に入ってきたことがあったの。それがお祖父ちゃんだったのよ」

はたきで本棚を掃除しながら、母は懐かしいなぁとつぶやいた。

「証拠、証拠は?ほんとなの?」

「お祖父ちゃんの大切にしていた万年筆から離れようとしなかったの。それで、お祖母ちゃんとそう話したんだよ」

本当にそんなことがあるのだろうか。

信じられなかった。暑いだけだと思っていた夏に、そんな事が起こっていたなんて。

「掃除を手伝う気が無いなら、はるちゃんの家に回覧板を届けに行ってよ」

「わかった」

はるちゃんの家は歩いてすぐのところにある一軒家だ。帰りにジュースでも買って帰ろうか。

ポケットに百円だけ入れて、少年は回覧板を抱えて家を出た。

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