僕らの夏
ねくらえ子
宛のない手紙
毎年、夏が来ると僕は不思議な気持ちになる。あの日の思い出で頭が埋め尽くされるのに、でも全て思い出せるわけではないから。
青年は真っ白な便箋の前でジュースを飲んだ。あの日のことを思い出すため、あの日に飲んでいたはずのジュースを買ってみてもやはり駄目だった。
きっと僕は許されないことをした。だからこうして誰に宛てるでもない手紙を書くことになったのだろう。でも、肝心な部分が思い出せなければ何も書けない。
彼はふいに立ち上がり、何も持たずに家を出た。
全て思い出すには、きっとあの場所に行くのが一番の近道なはずだ。
自転車で少し走ればいい。蝉の声がうるさい松林を抜ける。たまに虫が顔にバチバチ当たるのが嫌だが、それもなんだか懐かしい気分になった。
大きな川。大木を見つけてその陰にしゃがみ、彼は目を閉じた。あの日たちが少しずつ体に戻ってくる。
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