第13話 赤帽子とスプリガン

 いっぽん道にもどって歩き続ける。

 わだちがあるから人の住む村につながってそうだけど、それらしきものは見えてこない。代わりに原っぱのそこここに、岩が転がっているのが目に付くようになった。


 しばらく歩くと、なかば崩れた石組みが見えた。お城というには小さすぎる。砦のあとだろうか。


 近付いて調べてみると、屋根壁はところどころぬけ落ち、人が住むような場所じゃない。扉も外れているので中を覗いてみる。いつまで使われていたんだろう。壊れた椅子やほこりだらけのテーブルが転がっている。ふと気付くと、モーザがいない。いつのまにかひとりになっている。


「モーザ、どこー?」

「おはなつみー!」


 石壁越しに声が聞こえる。安心した、トイレか。


 迷子になるほど広くはないけど、薄暗くてひとりでいるのもちょっと心細い。そろそろ外に出ようとしたとき、扉の外れた奥の部屋の暗がりからのぞく、汚れた顔と目があった。


「だれ!?」

「……そっちこそだれだ。たびびとか?」


 半目になった赤い瞳。ぼさぼさのわら色の髪。赤茶けた帽子をかぶった小さな女の子。まずい、ひょっとしてこの子は――


「ひさしぶりのたびびとだ。ぼうしをあかくそめないと」


 近付いてくる左手にはつえ。右手には、背たけよりも大きなさびた大斧。人の血で帽子をそめる赤帽子レッドキャップ!?


「ちょっとまって! わたしはメグ。お城のあるじで――」

「んあ?」


 あっという間にすぐそばまで来ている。聞いているのかいないのか、片手で軽がると大斧を振り上げる。


 領主でも関係ないの?


「これ! これあげるから!」


 取り出したのはお弁当を包んでいたスカーフ。物をつつんで結ぶとトマトに見えるしゃれたデザイン。


「あかい。こんなにあかいのに……ほんとにいいの?」


 気に入ってもらえたのか、つえと斧を手ばなして、さっそく頭に被っている。ほんとうは赤いのが好きなだけじゃなく、旅人を襲うことにも意味があるんだろうけど、斧を振り回さないでいてくれるのならそれでいい。念のため、今度はちゃんとした赤い帽子を買ってプレゼントしておこう。


「どうした、赤帽子? 誰か来たのか」


 そっと外に出ようとしていたのに、入ってきた扉のほうから声がした。


「あん? 誰だお前」


 灰色の髪の小柄な女の人。胸と手足を鎧でおおった、RPGの戦士みたいなすがた。鉄色の鋭い瞳でわたしをにらみ付ける。このひとも妖精?!


「そのこはおしろのあるじだって」

「主? こいつが?」


 赤帽子レッドキャップの言葉にいぶかしげな表情をうかべる。そりゃまあ、わたしだって信じられないけど!


「本当だよ! ちゃんと買ったもん! わたしがあのお城のあるじだよ!!」

「いや、ご領主は……お前、何か証拠はあるのか? 支払いを済ませたなら見せられるよなあ?」

「それは……」


 領主の印章やなんかがあるんだろうか。正直に言えば、まだ500円を払ったわけじゃないし……


「やっぱりな。お前は城に入り込んだ盗人ぬすっとだ!」


 鎧姿の女の人は、使い込まれた幅広の剣をぬく。

 まただ! こんどは逃げ場がない!!

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