第11話 見回りにいこう!
館に帰ると、シルキーが大掃除を始めていた。
「ああもう、のぞかないでくださる?!」
「のぞいてないよう……」
わたしがいると仕事ができないらしい。邪魔しないよう、今日は館の中の探検は諦めることにする。
「そもそも、まだ鍵を手に入れてないしね」
正面玄関は内側からも開けられないので、ずっと仕様人部屋から出入りしている。べつに不便があるわけじゃないのでかまわないけど、館の中には鍵のかかったままの部屋も多い。たぶん、古い映画で見たような、鍵束があるに違いない。
城壁の内側、お城の敷地内には、館の別棟や離れ、塔や温室らしきものまである。敷地の中のだけでも、まだ調べていない場所はたくさんある。けれど、そこも鍵がないと入れないみたい。
塔のてっぺんの部屋はお城の中で一番高い場所だから、のぼって景色をながめてみたいし、館の地下に酒蔵があれば、クルーラホーンに会えるかもしれない。
「お天気も良いことですし、領地の見回りをされてはどうです? モーザなら案内できますよ?」
難しい顔で考えていると、洗濯籠に洗い物を詰め込んだバンシーがアドバイスをくれた。
「お弁当も作ってさしあげますよ?」
シルキーが焼いたパンを4つに、ゆでた卵を2つ付けてくれる。ちょっとしたピクニックにはこれでじゅうぶんだ。荷物の中からランチョンマット兼用のスカーフを取り出し、包んでお弁当を作る。
「木の実を取るていどならかまいませんが、外で出会った妖精に何かもらっても、口にしないでくださいね。メグ様には食べられないものもあるかと思いますから、気を付けてください」
「ありがとうバンシー。そういえば、このアプリ――」
良い機会だと、気になっていたことを聞いてみようと思ったのに、バンシーはいつのまにか仕様人部屋をあとにしていた。
「……まあ、いいか。モーザも持ってる、こういうの?」
「うん? ……これ?」
ポケットをごそごそ探し、スマホらしきものを引っ張り出す。ポケットあるんだ、この毛皮。
「誰からもらったの?」
「んー? 起きたらポケットに入ってた」
寝ている間に誰かが勝手に入れたってことか。そんなのでよく使い方が分かったな。
見せてもらうと、送ってくれたのと同じような、たくさんのピンボケ写真を撮っている。
「写真好きなの?」
「うぇへへ……」
その照れ笑いはどういう意味?
それに、わたしのと同じお城アプリ。ここでは通話も出来ないのに、なんでこんなもの持ってるんだろう? それに、どうしてわたしにメッセージを送れるんだろう?
試しにメッセージを入力してみると、わたしのスマホが反応した。
「あれ? 送信できる」
逆に、わたしのスマホからもモーザにメッセージを送れた。アンテナ表示は圏外のままで、ママにも友達にも通話は出来ないのに。
「???」
理由は良く分からないけど、このアプリ限定なら、たとえここが異世界でも連絡は取り合えるということらしい。
『洗濯なう』
そうしてるうちにも、バンシーの呟きが流れた。
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