第10話 朝の水浴び

 昨夜はシルキーを捕まえるのに手いっぱいで、お風呂に入らないまま眠ってしまった。家に帰ればシャワーを使えるけど、せっかくだからお城で済ませてみたい。


「もちろんありますよ? お湯を使われるのでしたら、ちょっとお時間いただきますけど」


 バスタブに張るお湯を沸かすのに時間がかかるのだとか。給湯器がないんだからあたりまえか。


 話を聞いていると、バンシーがお湯をつぎ足したり、身体を洗う手伝いをしてくれるつもりらしい。いくら家きの妖精といっても、恥ずかしいし遠慮したい。


「今はいいよ。水浴びしてくるから。バンシーも来る?」

「わたしはお洗濯の続きがありますので!」


 洗剤を手に入れたバンシーは、この機会にカーテンのたぐいも洗いたいのだという。


「わたくしも仕事がありますの」


 目を向けるとシルキーは、わたしが口を開く前にツンとあごを反らせて言いはなった。


「モーザはいく!」


 元気に手を上げるモーザ。うん。そうだと思ってた。


 この前の失敗を教訓に、自分用の水着と、予備のものを何着か用意してある。モーザには、キツくなって着れなくなったセパレートの水着。これならしっぽの邪魔にならない。


「なんで水浴びするのに服きるの?」

「いいから」


 あらかじめ水着に着がえ、木立の中の泉に向かう。足音で気付いたのか、泉の中からジェニーが顔をのぞかせた。


「さっそく来てくれたかメグ……って、なんだそりゃ? 服着たまま水浴びする気か?」

「あなただってそうじゃない!?」

「風情がないな。それじゃあすみずみまでキレイに洗えないぜ?」


 ジェニーはぶつぶつと不満の声を上げていたが、わたしに水着を脱ぐ気がないのを悟ると、ぶくぶくと泡を残して泉の中に消えた。


 何も身に付けずにする水浴びも、開放感があって気持ちよかったけど、さすがに日なか、特にジェニーが見ている前で素肌をさらす気にはなれない。


 軽く汗を洗いながし、つめたい水に身体を浸す。モーザは最初から水遊びをする気だったようで、ばしゃばしゃとしぶきを上げ、犬かきで泳ぎ回っている。


「モーザ、ほどほどで切り上げるよ……うん?」


 水かきで揺れる水面に、布切れが浮かんでいる。


「ちょっとモーザ! 脱げてる脱げてるー!!」


 しっぽのせいで浅めに履いていたせいか、水着のパンツが浮かんでいる。


「だいじょうぶー! へいきー!!」

「大丈夫じゃないって!!」


 あわててパンツを引っつかみ、モーザを捕まえる。


「えー、まえは上も着てなかったのに……」

「今日は上も下も着るの!!」


 最初から何も着ていないのと脱げたのでは、まるで意味合いが違う。騒ぐわたしたちを、水面から顔を浮かべたジェニーがのぞいている。抜け目ない!


「あなたが脱がせたんじゃないでしょうね?」

「とんでもない!」


 ひらひらと手のひらを振って見せるも、ジェニーは緑の歯を見せて笑っている。今度からモーザには、わたしの古いスクール水着を改造して着せることにしよう。

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