第8話 はじめてのお泊り
明りもつけない暗い部屋で、スマホを手にバンシーからの連絡をまつ。
『入室なう』
合図と同時に、『入城』ボタンをタップ。仕様人部屋でテーブルをひっくり返そうとしていたシルキーは、不意に現れたわたしを目にし、あんぐり口を開けて動きを止める。
「あ……あなた、いったいどこから湧きましたの!?」
逃げようとするシルキーを捕まえると同時に、待ち構えていたモーザが部屋に飛び込んでくる。窓からのぞき込み、スマホ片手にビッと親指を立てて見せるバンシー。あの端末のことも、改めて聞きださないと。
「放しなさい! 服が汚れるじゃないの! いたッ!? こら噛むな! 噛まないでー!!」
シルキーはモーザにかじられてべそをかいている。
「もういい。やめたげてモーザ」
「わふ!」
さすがに可哀そうになってきたのでやめさせると、シルキーは顔を覆って泣き出した。
「なによ……わたくしのこと、ずうっと放っておいたクセに……」
なんだ。一人ぼっちで寂しかったのか。
しゃがみ込み、泣きじゃくっているシルキーの顔をのぞき込んで語りかける。
「あのね、シルキー」
「隙ありですわ!! バーカ、バーカ!」
シルキーはわたしの顔のまん中に頭突きを入れ、あっという間に部屋から逃げ出した。
……ウソ泣きか!
「だいじょうぶ? 追いかける?」
顔をおさえ、痛みにぷるぷる震えながらうずくまる。問いかけるモーザには、首を振って応えた。
§
部屋に戻り、ペンと便せんを用意する。おなじ文面を十数枚書き上げると、ハートやネコ、キャンディーなど、かわいい形に折り上げた。
§
「これを館のあちこちに置いて来て」
「わふ?」
とんぼ返りでお城に戻り、3人で手分けして手紙をまき終えると、夕食の準備に取り掛かる。メニューはカレーライス。バンシーのおかげで、厨房は使えるようになっている。
水道が無いから少し面倒だけど、水は瓶にたくさん汲んである。最初は抵抗あったけど、川と泉どちらの水も、水道水やミネラルウォーターよりずっとおいしい。
遅くなったからズルをして、ごはんは家で炊いてきた。
「ご領主が帰ったと知れば、領地のみんなから小麦やミルクが届けられますよ」
そういえば、お城の外にはほかに人間はいないのかな?
なんとなく、イギリスのどこかの田舎かなと思ってたけど、そうじゃないのかも。まあ、こんなにステキなお城に住めるなら、どこでも構わないのだけれど。
仕様人部屋のテーブルに食事の準備を整え、カレーの鍋を運ぶ。
「なにこのシチュー? どんな味?」
「待って。まだ食べちゃダメ」
鍋をのぞき込んで待ちきれない様子のモーザをたしなめ少し待つと、扉の隙間からおずおずとシルキーがのぞいた。
「お招きされたから来てあげたのだけれど。あなたのことはまだ城主と認めたわけじゃないけれど、夕食くらいはごちそうになってあげてもいいかしら?」
「素直にお招きありがとうって言いなよ」
シルキーはツンとあごを反らせてしらんぷりしていたが、ひと
「あら? あらあらおいしいわ。なかなか悪くないじゃない!」
食事の片づけを済ますころには、目を合わせてくれるていどにはきげんを直してくれた。いまなら悪さはしないだろう。寝巻きに着替え、手分けして寝室じゅうにちらばった羽毛を集めカバーに押しこめ、ベッドのシーツを新しいものに取りかる。
「こんなに大きいんだから、みんなで寝れるんじゃない?」
「わふ!」
言い切る前に、ベッドに飛び乗るモーザ。寝相が悪くなければ、子供4人でも充分な広さ。だけど、このぶんだと朝には誰か床に落とされてそう。
「わたくしは……」
とまどうシルキーの手を引っ張って、ベッドに押し倒す。
「せ、せっかく片付けたのに、暴れるとベッドが壊れちゃいますよう」
こぼしていたバンシーも、最後にはベッドに腰を下ろした。
ランプを消して、まくらを並べてシーツに入る。
「なんかお話して!」
眠くないのか、隣に潜り込んできたモーザがせがむ。反対側に入ったシルキーも、モーザの向こうでシーツを口元まで引っ張り上げたバンシーも、期待した目をわたしに向けている。
学校の友達相手なら、テレビやゲーム、新しいお店。ちょっとした打ち明け話などするところだけど、この子たちにはどんな話をすればいいんだろう。
「うーん……。それじゃあ昔、ゼノア村に住んでたチェリーって子が――」
わたしの知っている、妖精と関わり合いになった女の子の話。人と妖精が触れ合う話をすれば、それをきっかけにこのお城のことや前の領主のことも聞き出せるかも。
わたしの話が終わるころには、モーザは寝息を立てていた。バンシーとシルキーは、自分が
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