第6話 洗濯なう!

 体温計の数字は37.8度。頭が痛い。関節がズキズキする。

 薪ストーブの前でうとうとしていたのは覚えていたけど、目が覚めたら自分の部屋のベッドの上だった。


 生乾きのパジャマを着せられていたが、それがまずかったみたい。朝起きると頭が痛く、声もおかしかった。ママは学校に連絡すると、今日はいちにちベッドで大人しくしているよういい含めて仕事に出かけた。


 レトルトのおかゆとあくえりあすで簡単な朝食をすませる。薬を飲んで大人しくしていると、昼頃には頭痛も治まってきた。


 37.2度。ベッドでスマホをいじるくらいならいいだろう。さっそくお城のことを調べよう。


 昨日見ていたオークションのサイトはリンク切れになっていて見付からない。「お城」「オークション」「妖精」「売ります」。思い付く限りいろいろ組み合わせて検索しても引っかからない。


 もうわたしのお城には行けないのかな……


 しょんぼりしていると、見慣れないアプリが追加されてるのに気が付いた。


 お城の絵のアイコン。わたしが眠っているうちに、バンシーかモーザがいじってなにか落としたのかな? でも、お城ではスマホ使えなかったのに?


 タップして立ち上げてみると、通話アプリのような画面が表示された。すでに会話の履歴がある。髪の長い女の子の泣き顔アイコンが、定期的に呟いている。


『洗濯なう』

『掃除なう』


 バンシーかな?


 ながめているうちに、泣き顔アイコンは部屋の写真をアップした。家具に白い布が掛けられている。部屋の中央には天蓋付きのお姫様ベッド。


『寝室お掃除開始』 


 城主の使う寝室なのかな? ここで寝られるなら、何時間でも大人しくしてるのに。


 にやにやしながら見ていると、黒い犬の顔アイコンが写真を送ってきた。


『かえる』

『ばった』


 ピンボケしてる画像ばかり。きっとモーザだ。昼の間はずっと原っぱを走り回っているのかな。


 なんだか楽しくなってきてずっとスマホをながめていると、たまにグロい画像も送られてくる。


『3人目訪問』


 血塗れでビックリ顔の、パジャマ姿のおじさん。


『4人目訪問』


 同じく血塗れの、無表情な太ったおばさん。


 ……首のない馬のアイコン。デュラハンさんか。イタズラなのか、ほんとうに死を告げているのかは分からないけど、とりあえずこれは見なかったことにしよう。


 アプリの画面には、門の開いたアイコンの『入城』ボタンがある。きっとこのボタンを押すと、またお城に行けるに違いない!


 すぐにでも試して遊びに行きたかったけど、せっかく治りかけている風邪がぶり返しては元も子もない。


 何度もボタンをタップしそうになるのを我慢して、その日はずっとベッドの上でスマホ画面をながめて過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る