第4話 いきなりデュラハンさん
「ワハハッ! あいさつに参ったぞ! 新しいご領主が決まったと聞いてな!」
夜だというのに大声で叫ぶのは、中世の貴族っぽい男装の女の人。ただし、声はわたしの目の前、女の人が右手で抱える首が出している。肩から上がないせいで、変なシルエットだったんだ。
編みこんだ赤毛にそばかすの目立つ勝ち気そうな顔。おでこが赤くなっている。左手に血のしたたる鉢を持っているから、きっと頭でノックしたんだ。
「……デュラハンさん?」
「ああ。ガン・ケアンでも構わないがな!」
「ううっ……なんで血をぶっかけられてるのかな? ……わたしやっぱり死んじゃうの?」
デュラハンさんはじんわり涙ぐむわたしに気づき、あわてて手にしていた
「すまない。久方ぶりに城主が帰ったと耳にして、ついテンションが上がってしまったな!」
ミュージカルっぽい大げさなしぐさで、心からの謝罪を示すデュラハンさん。
「ついじゃないよ! まだ中学にも上がってないのに死にたくないよ!」
あと、なんで顔全体を拭いてくれないのかな?
「なに、あいさつ代わりだ。減ったとしても一、二年の寿命だろう」
「……やっぱり減るんだ、寿命」
かえって深く曇るわたしの憂い顔を前に、元気づけようとしてか、わたしの肩をバンバン叩く。
「いや、しかしご領主どの。死ねばヴァルハラで酒池肉林ですぞ? オーディン様とも盃をかわせるのですぞ?」
「だからまだ未成年だって! お酒飲めないよ!」
「なんと……オーディン様の盃が受けられぬと?」
「アルハラ!?」
「あーっ!? 何やらかしてるんですかデュラハンさん! ご領主泣かしちゃダメじゃないですか!!」
騒ぎに気付いたバンシーが、あわてて手拭いを持って駆け寄ってくる。
ちょっと待った、それいままで掃除に使ってたやつだよね?
「あらあら。このままじゃ染みになっちゃいますね。すぐ水に漬けないと。メグ様は川で水浴びをされてきてはいかがです?」
「え……外で?」
「夜だし人目もあるまいよ。見られて困るほど育ってもおらぬようだしな!」
「ひとことよけいだよ!」
水浴びには、居眠りから起きたモーザが付いて来てくれることになった。下着姿でバンシーが持たせてくれたシーツにくるまり、川へと向かう。
「うぅっ……恥ずかしいな……」
「なにが?」
モーザは首をかしげている。……犬だしね。こっちは合宿や林間学校で、みんなと一緒にお風呂に入るのにも勇気がいるのに。
「たかが水浴びが恥ずかしいのか、メグどの? 胸のサイズと同じで奥ゆかしいな!」
なんで微妙にディスるんだろうこの人は?
首なしの馬を繋いだ城門に向かうまでと、いっしょに歩いていたデュラハンさんの首が、ふと何かを思い出した表情を浮かべる。
「確か、この城には泉があったはずだな。城門の中なら、外よりは幾分心安いのではないか?」
たまには役に立つことも言ってくれる!
デュラハンさんにお礼を言って別れたあと、わたしたちは城門内の木立ちに踏み込んだ。石壁で区切られているだけで、じっさいは外の森が続いているようなかんじ。
「こっち。水のにおいがする!」
しっぽを振るモーザに引っ張られて行った先には、小さな池があった。月明りを映す水面は澄み渡っている。デュラハンさんは泉だと言っていたから、ここから湧き出したばかりのきれいな水なんだろう。細い流れが一本、木立の中に続いている。外の小川に繋がっているのかな?
「はーやーくー!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます