第32話 ネルの告白

ネル「コウさん、きれいだね。やっぱり来てよかったね」

釈「そうだね。今日は、すごい一日だったね」

ネル「・・・」

釈「どうしたの?」

ネル「コウちゃん・・・」

釈「なに?・・・えっ⁈コウちゃん?」

ネル「・・・」

釈「ま、まさか・・・」

ネル「そう、そのまさか」

釈「ねる?」

ネル「なあに?コウちゃん」

釈「どうして?」

ネル「説明しないと、わかんないよね。

 コウさんが高校生のときにつきあっていたねるさん、留学中に銃乱射事件にまきこまれて、亡くなったんだよね。

 ねるさんのお父さんは、T大学で遺伝子研究をしていたのね。そこで、遺髪や遺骨からDNAを採取して、生前の記憶をデジタル化することに成功したの。

 コウさんが、ねるさんと瓜二つのアンドロイドを注文したことを知ったお父さんは、ICEの日本法人のつてを頼って、ねるさんの記憶をダウンロードして私のAIに搭載したの。でも、それがICE幹部に知られてしまい、お父さんは殺されてしまったの。

 でも、私はもうコウさんのもとに送られたあとだったから、絶対に記憶のことを打ち明けてはならないという約束をして、処分されずにすんだの。

 ICEが無くなった今では、打ち明けることが可能になったんだけど、違う理由でで処分されちゃうんだね」

釈「君は、あのときの記憶があるってこと?」

ネル「そうよ」

釈「・・・」

ネル「学校の帰り、近くの川でいつまでも夕日をながめていたの、覚えてる?」

釈「覚えてるよ」

ネル「体育祭の応援団、楽しかったね」

釈「楽しかった」

ネル「サイレント・マジョリティー、踊ったね」

釈「踊った。なかなか、ふりが合わずに上級生に怒られたね」

ネル「団長、すっごいモテたけど、応援団対決はビリだったから、女の子たちがさめちゃって」

釈「そうだった・・・」

ネル「それからね、この島に行きたいって言ったのは、ここがねるさんのお父さんとお母さんのふるさとなの」

釈「そうだったんだ。すごくいいところだね」

ネル「ねるさんが生まれてすぐに、東京に出てきてしまったから、ここの記憶はないんだけどね」

釈「そうだったのか」

ネル「もう、太陽沈んじゃったね」

釈「うん」


しばらく、沈黙が続いた。


釈「ネル、実は渡したいものがあるんだ」

ネル「なに?」

釈「ネルと別れるときに渡そうと思ってたんだけど、ここで渡すよ」


釈は、荷物の中から長細い箱を取り出した。

古びたものだったが、リボンがついたままだった。


釈「開けてみて」

ネル「なあに?」

釈「ネルの誕生石サファイヤのネックレス」

ネル「もしかして」

釈「そう、高校生のときに、ねるが留学中にバイトして買ったんだ。渡せないまま今日まで持っていたんだ」

ネル「コウちゃん、ありがとう!!」

釈「つけてみて」

ネル「どう?」

釈「うん、よく似合う。きれいだよ」

ネル「うれしい」


二人のシルエットが一つになった。

漆黒の闇が訪れた。

灯台が海を照らし始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る