第18話 伝えられない

男性客が自殺したと報道されたことは、意外にもネルのレストランでは誰も知らなかった。


ウェイトレスの先輩アンドロイドのフユカが「昨日は最悪だったね」と話しかけてきた。


ネルが「あのお客さん、死んじゃったんだって」というと、フユカは「えっ⁈うっそ⁈」とまるで知らない様子だった。


オーナーも「気を取り直してがんばってね」という。


ネルは、何かがおかしいと感じた。



ネルは、その夜、思いきって釈に打ち明けようとした。


「コウさん、聞いて。昨日ね…$#&!+<&%#$*&」


まったく話ができなくなった。自分では一生懸命打ち明けようとするが、まるで言葉にならなかった。


「ネル、どうしたの?」


「うーん、なんでもないの」


そこで、ネルは気づいた。


悪い人間を抹殺することを人間に打ち明けられないのだと。


今度は文字にしようと試みたが、結果は同じだった。普通のことは書けるが、「そのこと」を書こうとすると文字にならなかった。


釈は、そんなネルを見て様子がおかしいことを感じ取っていた。




アンドロイド製造会社最大ICE社の本社はニューヨークにある。


日本の中枢で行われた秘密会議の内容は、経営者の知るところであった。


ICE社だけでなく、フランスのマシュラン、ドイツのシーネンスも同様だった。

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