「すれ違う二人」

 ある日の放課後、それはサッカー部に入部した将生たちがゴールに向かってシュート練習をしていた時のこと。美桜と苺が部活動に行くためにサッカーコートの裏を通っていると、将生の蹴ったボールが美桜の頭を直撃した。しかし、イチゴとの会話で盛り上がっていた美桜は

「森田、危ない!」

といった将生の声も届かず、イチゴが気付いた時にはもう美桜が倒れて気を失っていた。ほかのサッカー部員が保健室にこのことを伝え、先生が駆けつけ、そのまま救急車で病院に運ばれた。

「美桜!美桜!……」

先生から連絡を受けた苺が呼びかけるが、美桜の反応はない。

 その時、廊下を走る足音が聞こえてきた。と、次の瞬間、美桜たちのいる病室のドアが開いて、将生が入ってきた。

「森田、ごめん。大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょ。まだ意識も戻らないし……。」

「だよな……。」

「あっ……!菅原君、美桜が!」

 将生が病室に到着した時、美桜の意識が戻っていた。

「美桜!」

「森田!」

「苺と菅原君?!ここは?」

「病院だよ。美桜覚えてる?こいつのボールが美桜の頭に当たって、気を失って……。」

「いや……。覚えてない。」

ガラガラガラ……。先生が病室に入ってきた。

「先生。美桜はどうですか?」

「はい。脳に異常はみられませんでした。でも、記憶を失っているようです。ボールの当たった場所があと少し後ろだったら、脳に障害が残った可能性があります。」

「よかったね、美桜。」

「本当にごめん、森田。」

将生は土下座をしていたが、美桜は将生の姿を一度も目に入れようとしなかった。

 その後の学校生活でも、美桜と将生が顔を合わせることはなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る