今日から異世界部

葛白 ナヤ

第1話 入部

「転校生の、前野 賢治君、仲良くしてあげてね」


新しいクラスの先生が俺の名前を目の前にいる同じ年の生徒に言う。

高校一年、二学期開始と同時に俺はこの学校に転校してきた。


適当によろしくと言って指定された窓際の一番後ろの席へと座る。

転校は今回が初めてではない、何度目かと言われると正直、分からない大体長くて二年、短くて半年、まばらな転勤のせいでいろいろ苦労している。

こういう挨拶はもう、どうでもいいと思うようになってしまっていた。


一時間目が始まり、やったような話を聴きながら黒板の文字をノートに写し取っていく、あっという間に一時間が終わり、休み時間になる、すると先生が来て入部届けの紙を差し出される。


「・・・・・え」


「ごめんね、部活必須なの、これリストね、気に入ったのがあったら提出してね、じゃ、急いでるから~」


「ちょ・・・聞いてないっすよ!先生?おい、逃げるなよ!!」


残念ながら捕まえることができなかった。

残された部活のリストと入部届けの紙、仕方なくリストを適当に流し読みをする。


「・・・・・やる気ねぇよ」


運動神経が別に悪いわけじゃない、ただ、これと言って好きな運動がないのだ、文科系も大して興味をそそるものがない、どうした物かと考えていた時、ふと視線を感じた。


「ん?」


そちらの方を見ると教室の外で女子生徒だろうか、見覚えのない生徒がこちらをじっと見ていた。


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・気になるわー・・・」


無視しようかと思ったが視線のせいで気になりすぎる

仕方なく立ち上がり扉の前まで歩いていく、俺が来たことに驚いたのか、女子生徒はすこし、後ろに下がった。


「・・・・っ」


「何かようか?」


「・・・・・・・・・・ん!」


「え?」


質問をするとずいっと折りたたまれた紙を差し出される。

というか女子生徒の全体像はパッと見小学生くらいに見えてしまった。


「あ・・・あの・・・これは」


「じゃ!!」


「え・・・」


渡せたと満足したのか、小さな女子生徒は走り去って行ってしまった。

この学校は必要最低限の事をしたら逃げるように教育でもされているのか?

とりあえず、渡された紙を開けてみた。


「・・・・は?」


そこに書いてあったのは、実に不可解なものだった。


【君は選ばれた―。

この真意を知りたければ、第三校舎二階の一番奥の教室へ来られたし】


「・・・なにこれ」


このご時世にしては校舎が第三まであるこの学校、だが、第三校舎は専門教室があるような場所ではなく、主に部活の軽い合宿所のようなものだと教えられた。

そこに来いとはいったい何なのだろうか、どの道まだ授業が残っている。

行くかどうかはちょっと考えることにした。


とは言った物の・・・。


「来てしまった・・・」


好奇心には勝てなかった。

どういう意図で渡したのかと、問いただしたいのもあったし、ここに来いという事は部活なのかもしれないと思ったので、足が自然とこちらに向いたのだ。


「帰るか・・・」


誰もいなさそうだし、扉も何やら錠前までつけて閉じられているようだ、立ち入り禁止なのだろうか、よくわからないが俺は見ず知らずの生徒にからかわれたのだろうと思っていた時だった。


「あら、ホントに来てる!」


「っ!」


女の声がして、驚いて振り返った。

きれいな人、それが彼女に対して抱いた印象だった。

きれいに手入れされた長めの黒髪に紅いカチューシャをつけた女子生徒とオレにあの紙を手渡した小さな女子生徒がいた。


「あんた!」


「ぬ・・・」


「なるほどね、初めて転校生くん、私は谷林 星海たにばやし あいか君に手紙を渡したこの子は、小谷 美優こたに みゆよ」


「はぁ・・・どうも・・・前野賢治です・・・」


「入部希望できたの?」


「いや、この手紙の意味を知りたくて・・・」


「そう、まぁいいわ、君も気に入ると思うわ」


「え」


そう言って、ポケットから変な形の会を取出し、錠前に差し入れようとする、だが錠前のカギ穴は明らかに形が違うにカチャリと音がして錠前は開き扉の通行を可能にした。


「え・・・・」


「ほら、おいで!」


扉の向こうは教室ではなかった、だが光に包まれているせいでその向こう側は見えない星海に手を引かれるがままに俺はその扉をくぐった。


城が視界を覆ってしばらく目をつぶっていた。


「お!やっと来たなぁ、おせぇぞ」


「ごめーん、先生に捕まって」


「あ?なんだこいつ?新人?」


他にも人がいたのことに驚いて目を開けると二人の青年がいた、一人は誠実そうな茶髪が似合うイケメン、俺を睨んでいるガラの悪い金髪の男、そして、何よりも驚いたのが二人が身に着けている物だった。

茶髪の方はなにやらゲームに出てきそうな赤と黄色を基調とした鎧と長めの剣、ガラの悪い方は黒いジャケット風の軽装だが、腰には拳銃と小刀がぶら下げられていた。


「・・・・は?」


「美優が手紙渡したの、転校生の賢治君」


「ほー、あの人見知りがねぇ」


「ようこそ、賢治君、異世界部へ」


「・・・・・は、はい?」


ここに来ると言う選択肢がそもそもの間違いだったのだろうか、

兎に角事情をはなして、帰りたかった。


「なるほど、特に何も考えずに来たわけか」


「はい・・・」


ココは彼らの拠点にしている家の一室らしい、外を見たら彼らと同じような姿の人やゲームやアニメなんかで見るエルフと呼ばれる種族の人や獣人と呼ばれる人たちが街にはあふれかえっていた。


「ぶはっ!!これは傑作だな!なぁ、えいたどうするよ?」


「せんじ、からかうのはよくないぞ」


せんじと呼ばれた金髪の男は爆笑している、意外と顔は整っているように見えるがいかんせん目つきが悪、えいたと呼ばれた茶髪イケメンは彼の反応をとがめ再びこちらに顔をむける。


「まぁ、こんなこと簡単に信じられないだろうけど、あの錠前が見えただろう?」


「錠前?ああ、あれですか」


「そう、あの錠前が見えたのなら、君は選ばれたも同然だよ、あの教室は何年も前から使われていないんだ、その理由があの錠前なんだ、あれを見つけられない人にとってここは開かずの扉だからね」


「へー」


「まぁ、どういう原理でつながっているかは知らねぇが部活と称して、こうして集まってんだよ」


「へー」


「どうだ?面白そうだろう?」


「うぐ・・・・」


確かに興味を引かれるというか、リアルでゲームの世界にいるという事だ、これはいろいろと面白そうだとおもう。


「あ、危なくないの?」


「まぁ、危険は危険だよ」


「それがまた面白いんじゃねぇか、レベルの概念もあるみたいだしよ、そう高いとこ行かなきゃまず死ぬことはねぇな」


命の危険はあるが彼らは堅実にこの世界を楽しんでいるようだ。

すると、階段を下りてくる音と共に星海が声をかける


「お待たせ!説明終わった?」


「おう、今終わったとこだ!」


美優はウサギの着ぐるみみたいな格好だが本を持っている、魔術師なのだろうか帆星海は体のラインを惜しみなく出した細身の鎧に身を包んでいた、女剣士なのだろうすごくきれいだ


「相変らず、イイ身体だなぁ・・・」


「打つわよ!」


「へーへー」


せんじの言葉に危うくうなずきそうになったが我慢した。


「賢治君はも、どう?」


「え!あー・・・余ってる職業とか・・・あります?」


特に何も考えずにそう言った、そして渡されたのは魔道士の杖だった。

なるほど、このメンバーで回復役は美優の様だから、魔法攻撃候補はほしいと思うよな、何気なしにその杖を手に取った時、頭の中に何やら呪文みたいなのが流れ込んできて思わず手を離した。


「今のは・・・・」


「杖が記憶している、貴方のレベル、レベルが上がれば使える魔法は増える、それらを全部、武器が記憶している」


「へ、へー」


ぶっきら棒に美優が説明してくれた。

では今のは初期魔法なのだろう、炎系の名前だったような気がする。


「よーし!、んじゃあ、レベル上げに行きますか!!」


「賢治君のレベルが五になったら、帰ろうね」


「ああ、そうだな、とりあえずは町周辺の雑魚からだな」


「そうしましょ、雰囲気もつかめるだろうし」


流されるままに彼らについていく、まちの出口と言うところを抜けると広大な草原が広がっていた。

風が吹く度にざわざわと草たちは触れ踊る、一本道が伸びていてどこかへと延びている道を少し外れるとネズミの姿をした奴とゼリーのような薄透明なモンスターが現れた。


「賢治君、何か撃ってみたら?」


「え!」


「使える物を試してみないと、どんなものなのか分からないでしょ?」


「えー・・・・フォイアー!!」


戸惑いながらも杖を前に出して、その呪文を口にする、すると、杖の先に小さな炎が灯り、ネズミの方に向けて飛んで行った。


ぎゅうううう!!という苦しむような声が聞こえて目を開けるとネズミのモンスターの姿はそこにはなかった。


「お・・・おお?」


「ほーう、いいじゃねぇか!」


ゼリーのようなモンスターせんじの短剣の一撃で消滅した。

すると、杖の先に小さな光が集まり、杖の中へと吸収された。


「何今の?」


「経験値よ、モンスターを倒すと武器が勝手に経験値を吸収するの、ほら、もう、上がってる」


杖を確認するとレベルアップの文字が見えた。


「面白いな」


まったくどういう原理なのかは知らないが不思議と面白い、それから一体何時間いたのだろうか、モンスターを狩りまくっていた。

そろそろ帰ろうとしていた時だった。


―ぐるるるるるる!!


「ん?」


何かが唸る声を聞いて振り返った。

だが、草花は穏やかに風に揺られているだけだった。


「・・・・気のせい・・・か?」


何かの気配は確かにあるような気がした。


「賢治君!!かえるよ!!」


「・・・・」


「どうした?せんじ?」


「どこかに隠れてやがる・・・そうだろう賢治」


「ああ、声が聞こえた、たぶん狼とかそういう系等の・・・」


「え!!」


「こんなところに・・・?」


「・・・・」


予想通り、それは現れた。

草花をかき分け一気に駆けて抜けて星海めがけて飛び出してきた。


「あいか!!」


「我を守れ、シルト!!」


星海の前に出て盾の魔法を使って防いだ。


「このクソ犬!!」


「はああああ!!」


防がれた狼のようなモンスターが地面に着地したと同時にせんじとえいたが切りかかった、だが、二人の攻撃を避けて狼はどこかへと逃げて行ってしまった。


「あー?逃げんなよ!!」


「・・・・・」


「大丈夫?」


「ええ、ありがとう、賢治君」


「いえ・・・」


「ナイスだったぜ、良く反応したな」


「まぐれですよ・・・」


「そうだとしてもすごいよ、僕ですら反応できなかったのに・・・」


咄嗟の判断が功をそうした。

誰も特に大きなけがはなくてよかった。

念のためあたりを警戒しながら町に帰り、拠点へと戻ってきた。


「疲れたー!」


「そろそろ帰らないとね」


「しかし、危なかったなぁ・・・」


「ああ、こんな場所にあいつらは居ないはずなんだけどな・・・」


「はぐれモンスター」


「そうね、帰らないといけないし、着替えましょ」


「だな」


武器をしまってからみんなは制服に着替えた。

皆が着替え終わったのを確認して、あの扉を潜って学校に帰ってきた。


「そういえば、ちゃんと名前言ってなかったね」


「あ・・・そういえば」


「ぼくは、風見 栄太だよろしく」


「寺島 千次だ」


「よろしく」


同じ学校の先輩だった事には驚いて敬語を使おうとすると拒まれた。

この異世界にいるときはため口でいいと言うのだ、それはいろいろとありがたい

異世界部と言ってはいるが学校の方では別の名前になっていると聞いた。

今日はお開きとなり、全員で教室の扉をくぐるとあたりはすっかり夕暮れ模様だった。


「長くやりすぎたな・・・」


「まぁ、仕方ないね」


「すみません、俺がへたくそなばかりに・・・」


マホを放つのはいいのだが命中率が悪い、そのせいで、余計に戦闘を長引かせてしまったのが反省点だ。


「初めてだったんだもん、仕方ないよ」


「実践、あるのみ!」


「そうだぜ、それに今日はイレギュラーもあったんだ、これからうまくなりゃいいんだよ!」


「はい、頑張ります・・」


夢のような時間だったが手に握った杖の感触はいつまでも残っていた。

お試し、という事だったが俺はすっかりあの世界にはまっていた。

これまでになかった体験、大自然を体に受けて、そこで生きる者たちとの戦いに俺は心が躍った。

カラだった水槽に水が注がれたように、身体に杖が馴染んで行くようなそんな不思議な感じに溺れそうになっている。


「はぁー・・・・まいったな・・・」


自分がここまで思う事はほぼない事だった。

そんな自分に戸惑いながらも自然とオレは入部届けにその部活の仮名を描いていた。


「これを」


「あら・・・ここにするの?」


「ええ、面白そうだったので」


「・・・・分かったわ、受理させます」


「ありがとうございました。」


翌日、先生の入部届を提出した。

驚いた顔されたが、素知らぬ顔でいう、少し戸惑っているのか間を開けて受理してくれると言ってくれた。

お礼を言って、職員室を出て行くと栄太さんにばったり出くわした。


「ようこそ」


「ええ、これからよろしくお願いします」


小さな声でそう話して、二人同時に噴き出して、すれ違いながら教室に帰っていった。

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