2019/4/16 「EXIF」

 吊り革につかまって乗り降りする乗客をやり過ごす。

 自分の個人情報について無防備な日本人から個人情報を騙し取っていたミラクルバイを名乗る謎の外国人集団と、マレーシアのネットショップのミラクルバイ。

 そしてミラクルバイのサーバーにハニーポットを仕掛けた謎のハッカー。

 すべてがすべて無関係だとは思わない。

 だが逆に、全部がグルだということは無い気がする。

 ミラクルバイのネットショップはおそらく名前を騙られただけの被害者だろう。

 ミラクルバイを騙った外国人の集団とミラクルバイのサーバーにハニーポットを仕掛けたハッカーはグルだと考えるの自然だろう。

 そこで、だ。

 ぼくは何をしたいのだろうか?

 とりあえず警察に捕まりたくないというのはあるが、過去の日本の警察の逮捕実績を見る限り安心感しかない。

 匿名化ソフトを使って行われた犯罪のうち、我が国の警察当局が逮捕できたのは犯罪自慢をSNS上でして自爆したバカか、ネット上に痕跡はのこさなかったものの警察を挑発するために"ヒント"と称してUSBメモリーを野良猫につけたところを防犯カメラに取られたアホくらいだ。

 警察がぼくのことを捕まえられる確率というのは、放課後の池袋で自分の学校の生活指導の先生に鉢合わせるくらいの確率かそれより低いくらいだろう。

 そもそもなんでこんなことをやったんだっけ。

 ネットの裏側をちょっと覗いてみたいという好奇心だった。

 その好奇心を満たす以上の恐怖感を味わうことになったのだけれど。

 思考が迷子になり、目を窓の外に向けた。

 赤羽駅を発車した湘南新宿ラインの電車は池袋駅に向かって徐々に速度を上げていく。並走する京浜東北線の駅が後ろに流れていくのが見えた。

 しばらくすると電車は速度を落とし、これまで並走していた他の線路から外れ、窮屈なトンネルへと入っていく。

 上中里駅と田端駅の間で京浜東北線と別れ、上中里駅の手前からで山手線と並走を始めるようになるのを、入学直後、スマートフォンの地図アプリとGPS機能でで電車がどこを通っているのか確認した記憶がある。

 GPS?

「あの画像に何か情報が付加されていたりするんだろうか」

 画像データにはEXIFというデータへ画像以外の情報も付与することができる。

 これでたまに問題になるのが画像に付与されるGPSデータで、スマートフォンのカメラ機能を使って写真を取ると設定によっては、スマートフォンのGPSで取得した位置情報も画像ファイルへ付与されることがある。

 何も考えずにSNSへこの画像をアップロードすると、画像の撮影位置をネット上へ公開してしまうことになってしまう。自宅で撮影した写真なんかを上げてしまった日には目も当てられない。

 サーバーからダウンロードした真っ黒な画像ファイルだが、そんなSNS初心者みたいなミスはありえないだろうが、画像以外に別のデータも付与されているのかもしれない。

 わざわざ不自然なデータをサーバーに残し、僕にダウンロードさせたくらいだ。

 ダメでもともと、しかも何かデータがあったとしても罠の公算が高い。でも幸いなことに罠は寸前でハマることは回避した。

 ひょっとしたらハッカーのしっぽを捕まえることができるかもしれない。

 どうやら僕はまだこの事件を追いかけたいらしい。

 頬が緩むのを感じた。

 ちょうど池袋駅へ電車が到着するところだった。


 

 

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