第2章 400万円→2000万円
#S-3 スクリプトキディ 「デジタル・フォレンジック」
2019/4/16 「Welcome to Underground」
昨日は夕食が喉を通らなかった。
あと少しで自分のPCがハッカーにハッキングされるところだった。
自分の顔写真だけでなく、あのPCの中には自分の個人情報が大量に入っている。
その一部でもハッカーのに渡っていたらと想像するだけで背筋が凍るような思いがする。
うちにピザが大量に届く、みたいな低レベルな嫌がらせは流石にないだろうが、ぼくが思いつかないようなことをされるのではないだろうか。
それに加えて心配なことが一つ。
「警察とか・・・来ないよね・・・?」
自分がやったこともまたハッキング。
匿名化ソフトを使っていたし、なんなら接続先は海外だし・・・
ICカードをかざして改札内に入る。
人混みをかき分け、発車ベルがなり終わったオレンジと緑色のラインが引かれた電車に駆け込んだ。
そんなことはないとはわかっている。けれど周りの通勤・通学客全員が自分のことを見ている気がしてならない。
サーバーのハッキングに気がついたミラクルバイが現地の、マレーシアの警察に被害を訴え、マレーシアの警察から日本の警察に連絡が行く。
そして日本の警察はぼくのことを、捕まえようと血眼になって探している。
そのことを周りの人たちはぼくが湘南新宿ラインで池袋に向かっていることを警察に報告していて、警察官はぼくのことを捕まえようと降車駅に先回りしている。
ぼくが捕まるのも時間の問題・・・
「ないないない」
頭を振ってネガティブな思考を振り払う。
すし詰め状態の通勤電車の中。眼の前に立っていた中年のおじさんの迷惑そうな顔が目に入り我に返る。
窓の外をみると、列車は黄緑色のトラス橋へ入るところだった。
ガタンゴトンと列車が線路のつなぎ目を踏む音が断続的に響く。
自分の家のある埼玉県から退屈な学校のある東京都へ少しずつ近づいていく。
まだぼくは東京へ行くことに興奮と緊張を覚える。2年前までさいたま市で地元の市立小学校に通う小学生だったのだから仕方ないだろ?
今はただの通学路線に成り下がってしまったが、そのころはなにか特別な用事があって親に連れてきてもらうような、湘南新宿ラインはぼくにとって少し特別な路線だった。
そしてこの黄緑色の橋は、日常と非日常の間にかかけられた特別な橋だった。
トラス橋を渡り終えたのだろう。列車の走行音が静かになる。
それと同時に緩んでいた自分の思考回路がまともに動き出すのを感じた。
「ハニーポット」
そう、あれはぼくにウイルスを送りつけてきたハッカーが仕掛けたハニーポットだったのだろう。
この場合のハニーポットは、はちみつを入れるつぼのことではなく、ハッカーをおびき寄せるための罠のことだ。
はちみつ甘い匂いで虫をおびき寄せるように、脆弱性で間抜けなハッカーをおびき寄せるための。
もちろん昨日読んでた雑誌に(ry
その目的は何だ?そしてハッカーにとってミラクルバイは何だったのだろうか?
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