2019/4/15 「プレイヤーステータス」

「ハッキングかけてきたのはハッカーじゃなくてスクリプトキディ?」

「だろうな。ハッカーならあんな見え透いたハニーポットは途中で罠だと気が付きそうなもんだ。」

「ちなみにどんなウイルスなの?」

「まだ未報告の脆弱性を攻撃する、ウイルスソフトにはまだ引っかからない特製のウイルスで、PCのカメラを操作して写真をとって俺のサーバーに送ってくる。」

「変態」

 カメラを勝手に操作すると聞いて、妹が兄を不審者を見るような目を向ける。

「なんでだ」

「そうやって女の子のこと盗撮したんだ」

「どんなやつが俺たちのこと追おうとしてるのか気になっただけで・・・それに女性と決まったわけじゃないだろ・・・」

 青年はわざとらしく咳払いをする。

 そして妹のジト目を見ないようにしながら話を続けた

「次からもうやらないから・・・もっとも写真は送られてこなかったわけだけど」

「用心深いっていうのは写真が送られてこなかったからってこと?それだけ聞くと、ゼロティ攻撃を回避した優秀なハッカーっていうふうに聞こえなくもないんだけど」

「ウイルス付きの画像ファイルを開いたとき、おそらくそいつは自分のPCをネットから切り離していただけだろう。」

「なんでそう言い切れるの?」

「サーバーにハッキングしているときは匿名通信ソフトを使っていたんだけれども、その直前までは直接ミラクルバイのWebサーバーにアクセスして普通にWebサイト見てたんだ。そのときサーバーにアクセスしてたユーザーはそいつ1人だけだったから9割9分同一ユーザーだろう。」

「・・・」

「優秀なハッカーならこんなヘマはしないだろう。せめてアクセスからハッキングまで時間を置くはずだ。」

「わかったわ。それで、用心深いっていうのは?」

「ハッキングが終わってからすぐに、自分の家のIPアドレスを変えている。」

「そんなことできるの?」

 青年はリビングダイニングの脇に設置された、緑色のLEDが点滅する黒い筐体を指差す。

「アレの電源を一回切って、しばらくしてもう一度電源を入れ直せば、自分の家のグローバルIPが大抵の場合変わる。プロバイダーには記録が残ってるから、正直あまり意味もないんだが。」

 少女は興味なさげにうなずく。

「なんでウイルスが画像を送ってこないのか調べるために、直接アクセスしてきたときのアクセスログからそいつへハッキングかけようと思ったんだが、そのときにはそのIPアドレスは誰にも使われていなかった。」

 少女は興味を失ったようだった。

 そして兄よりだいぶ長い時間をかけて、ようやくカフェオレを飲み干した。

「ひょっとしたら手強い相手になるのかも、しれないぞ?」

 兄のそんな言葉に少女は可愛らしくあくびで答えた。

 

「話は戻るが、売上はどうやって受け取ればいい?」

 少女は少し考える素振りを見せる。

「リストの個人情報を1つ使ってネットバンクに適当な匿名口座を作ってらせたうえで、そこに売上を入金させて、口座を残高ごともらいましょう。匿名口座の相場は5万~10万くらいだと思うから、その金額で交渉してみて。」

「・・・わかった。向こうはこれまでの経費で60万請求してきてる。」

「最悪そこに10万上乗せされたとして、40万円を1週間足らずで400万円にしたわけだから、運用成績として悪くはないんじゃない?」

 どこかの高級マンションの一室で、2人の兄妹は不敵な笑みを浮かべた。






*作注)株式の相場観に加えて個人情報その他の金額は完全に作者の想像で適当に付けているので、そのへんはご了承いただければと思います。

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