2019/4/15 「ハニーポッド」
「我が国の絶望的なIT事情に関してはひとまず置いておくとして、ハニーポットに1人かかった。いや、かかりかけたというのが正しいか?」
ハニーポットとは和訳するとはちみつの入った壺になるが、IT用語としてははちみつが入った壺が虫などをおびき寄せるように、ハッカーを呼び寄せるための罠という意味になる。
具体的には予め脆弱性を残しておき、その部分が攻撃されたかどうかを検知・通知するような仕掛けを入れておくなどしたサーバーのことを言う。換気口の前に隠しカメラを仕込んで置くようなもの。
「今回ミラクルバイというマレーシアの会社の名前を使っただろ」
「うん」
「その会社、もちろんWebサイトを持っているんだけど、そこに罠を張っておいた。作動はしたんだが、どうやら完全には動かなかったらしい。」
「ふ~ん」
「あんま興味なさそうだな」
「だってお兄ちゃんの罠にかかったマヌケの話なんか聞いてもしょうがないじゃん」
「そのことで話したいことがあるんだが、コーヒーでも淹れるか?」
「飲みたい」
青年が席から立ちキッチンへ向かう。
一旦戻ってきて角砂糖の入った砂糖壺とミルクピッチャーをテーブルの上に並べた。
そして、しばらくしてコーヒーの入ったカップを2つ持って帰ってくると、少女が皿を避けて作ったスペースにそれを置いた。
少女は砂糖壺から角砂糖を3つ、ミルクピッチャーのミルクをすべてコーヒーカップの中へ注ぐ。
カフェオレにした妹とは対象的に兄はブラックのまま口に含んだ。
「マルウェア・・・ウイルス入りの画像ファイルをサーバーに入れておいた。ダウンロードまではしたようだが、ウイルスから俺のサーバーへのアクセスまだない。」
少女はまだ湯気を立てるコーヒカップの中のカフェオレに息を吹きかけ冷ましながら、上目遣いで目の前の青年を見つめている。
「実はな、」
青年は不敵な笑みを浮かべる。
「俺たちのゲームに関するヒントを入れておいたんだ」
「なんでそんなことしたの?」
青年はゆっくりと自分のブラックコーヒーを飲み干す。
そして一呼吸おいてからこう答えた。
「これはゲームだ。何か面白くなる仕掛けがないとつまらないだろう?」
「それはそうだけど・・・」
「ひょっとして、怖いのか?」
「そんなわけないじゃない!」
少女は語気をあらげる。そして頬も高揚し赤く染まっているようにみえた。
「それで?その罠に引っかかった間抜なプレイヤーは、どんな人物なの?」
「そうだな」
青年は指を組み、視線をどこか遠くへ向ける。
「ハッキングの腕は未熟。初めてハッキングしたんじゃないかって気すらする。だけどとても用心深い。」
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