#G-2 ゲームマスター「ハニーポッド」

2019/4/15 「売上」

「1件あたり4000円で買うってさ。向こうさんは」

「リストはだいたい1000人ちょっとだから、売値はだいたい400万円ってことね」

 すでに外は暗くなり、カーテンの閉じられた広いリビングダイニング。

 白を貴重としたその部屋の中の、広いダイニングテーブルの上には家庭料理が並べられ、兄妹が向かい合って座っている。

 凝ったデザインの照明が部屋と2人を明るく照らし出していた。

「「いただきます」」

 2人は手を合わせてお行儀良くそう言うと、取り皿へ料理を取り分けていく。

 机に置かれたタブレットでは銀行の公式アプリが登録された口座残高を表示していた。

「お兄ちゃん、お行儀悪いよ」

「はいはい」

 食事をしながらタブレットを操作する兄を妹が咎める。

「奏、おかわりはまだあるからな」

「私が食い意地がはってるみたいに言わないで。お兄ちゃんのバカ」

「デカイ取引のあとお前よく食うじゃん・・・」

 青年は方をすくめる。

「なにか言った?」

「いやなにも」

 口調こそ喧嘩腰だが、中の良い兄弟なのだろう。2人ともどこか楽しそうな表情を浮かべている。

「でも思った空売りじゃ儲からなかったみたいだな」

 株式売買では手数料を払って証券会社からお金も株も借りることができる。お金をかりる・・・というのはただ借金をしてパチンコや競馬をするのとあまり変わりはない。ただ株を借りると、空売りという株価が下がったときに利益がでる取引を行うことができるようになる。

 たとえばA社の株を1株、証券取引口座を開いた証券会社から借りたとしよう。1株100円のときに借りた株を売ると、当たり前だが100円で売れる。もちろんこの株は借りたものなので借金同様返さなければいけない。

 そこで、だ。しばらくしてA社の株が1株90円まで値下がりしたとする。このときに株を買うとこれも当たり前だが90円で一株買える。

 ここで借り物の株を証券会社に返したとして、100円で売ったものを90円で買い直したことになるので儲けが10円出ることになる。

 実際にはもっと多くの、千とか万とかの単位で株を借りてやることになるわけだが、本当は自分が持っていない株を株式市場で売るこの行為を空売りという。  

 もちろんA社の株が値上がりしたとすれば、この空売りは損をすることになるのだが。

「む~。私が考えたより、市場はことの重大性を理解できなかったみたい。JECもエイトアンドアイホールディングスも思ったより下がらなかった。ATMのソースコードの価値なんて投資家には1円玉より軽く思えるんじゃない?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る