2019/04/15「匿名」

「銀行口座・・・か・・・」

 幼女おさなめとの会話はこんな話が多かった。

 彼女曰く匿名のというかさっきの話しみたいな第三者を装って契約した銀行口座があれば色々怪しいことができると。

 マネーロンダリングと言っていただろうか。

 例えば誘拐犯が身代金を受け取ったとしよう。刑事ドラマやサスペンス小説の定番だけれど、警察には身代金の紙幣のナンバーが控えられているから犯人はそのままではおおっぴらに受け取ったお金を使うことができない。そこで一旦ATMで銀行口座に入金し、別のATMから引き出し直す。

 入金後すぐに紙幣のナンバーをチェックするわけではないから、犯人はこの方法で警察にナンバーを控えられていない紙幣へ交換する事ができるわけだ。

 脱税がとか他にも色々言われた気がするが、当時のぼくにも今のぼくにもよく理解できなかった。

 幼女の「この方法だとせいぜい数十万とか数百万円単位でしか処理できないけどね」という言葉だけ印象に残ってる。聞きながら十分大金だと思った。

 あいつが、どうして当時まだ小学生のくせしてそんな知識が豊富だったのかは未だに謎だが。

 頭脳は大人というか並の大人より知識・推理力ともに豊富な小学1年生だって居るしそんなもん案外不思議でもなんでもないのかも知れない。

 ちなみに、もっと大金を扱うには国境を超える必要があるらしい。日本の司法権が及ばない地域を経由させる必要があると。

 そのあたりはハッキングにも似たところがあるなと今となっては思う。

 海外サーバーを経由してハッキングを行うと、警察による追跡が難しくなるとよく言われる。追跡を行うためにはその海外サーバーのアクセスログを手に入れる必要があるが、日本の警察がそれを手に入れるには、海外サーバーがある地域の警察かそれに類する機関に協力を仰ぐ必要がある。なぜってその地域では日本の警察は何の権力も持っていないから。

 ただでさえ時間がかかるし、日本と現地の法律の違いでそもそも協力が得られなかったりする。

 匿名というのは不思議な概念だ。

 世の中のシステムは個人情報を登録して初めて使用することを許され、不特定多数の別の利用者とネットワークで繋がっている。携帯電話然り、インターネット然り、銀行口座然り。

 けれどその登録の際に登録情報を誤魔化したり、ネットワーク上のあらゆる点を経由して登録した個人情報を開示されないように画策したりして、その結果として人は匿名になれる。

 匿名というのは独裁国家で国家権力と戦う人々と犯罪者にとって大きな武器になる。

 日本において匿名の主な利用用途は後者であり、匿名を手に入れるための原資である個人情報はそれなりの値段がつくものなのだろう。


 

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