2019/04/15「個人情報の買値と売値」
のぼりやベストと同じような目がチカチカするような原色のインターフェースのアンケート回答画面。
生年月日、性別、職業。好きな色、好きな季節、好きな芸能人。
プルダウンメニューから選んだり、フリーワードを打ち込んだり、それぞれの項目に回答して、次へボタンを入力する。
さしあたりのない内容が続いていく。
どうして浦和に来たんだろう。特になにもないのに。
そんな事を感じながら回答を続けていった。
結構長かったアンケートも残り1項目になる。
次へボタンを押し、最後のアンケート内容に思わず頭がフリーズする。
そこには、「身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、保険証、学生証など)を撮影してください。」という説明とともに、画面の一部にタブレットのカメラのプレビュー画面が表示されていた。
「抽選のために必要で、アンケートに回答していただいた皆さんに登録させていただいております。学生証か保険証などを持ちでないですか?」
隣を見ると、先程から隣でアンケートに回答していた主婦が、自分の運転免許証をタブレットのカメラで撮影しているのが見えた。
どうしよう。
「これ、やっぱ要らないです」
一瞬悩んだのち、学ランのポケットに入れていた先ほどもらったボールペンを強引に押し返すと、踵を返してその場から走って逃げ去った。
先程の女性が、そして駅前を行く周りの人が奇異の目線でぼくのことを見ているのを感じながら、駅前ロータリーを駆け抜けた。
物陰に隠れながらこっそりとロータリーを振り返ると、先程の女性が、また別の人にタブレットを差し出しているのが見えた。
「さっきの色んな意味で怖いな・・・」
企業がハッキングを受けて個人情報流出すると新聞沙汰になる昨今だけれど、実のところぼくは最近までどうしてハッカーは個人情報を欲しがるのか深く考えたことはなかった。
あれは盗み出した個人情報がそこそこの値段で売れるかららしい。いわゆるダークウェブ、違法な薬物や武器、児童ポルノなどその他真っ当なマーケットでは取引できないような品物が売り買いされる、インターネット上の特殊な領域で。
いくらで売れるか、というのは情報の種類によるらしい。たとえ1件数円とか数十円であっても、数十万件とか数百万件のオーダーで流出すればそれなりの値段になる。クレジットカード情報が含まれると1件数千円とか1万円オーダーになったりするケースもあるらしい。
ちなみに全部、さっき電車の中でよんだ雑誌に書いてあった。
そこで、だ。
ネットバンクの口座なんかはスマートホンで撮影した保険証の写真でも開設出来る。携帯電話もキャリアのオンラインショップで、それを使って契約できる。今はそんな便利な2019年。
ここでマイナンバーカード、運転免許証、保険証など公的な身分証明証の画像というのは1件いくらで売れるのだろうか?加えてぼくは生年月日、性別、職業を別途入力しているからこれもセットだ。
ボールペンとマレーシア旅行検証に釣られた身分証明証の写真を撮影させた馬鹿な日本人は何人くらいいるのだろうか?
そして悪用されたひとはどんな目に遭うのだろうか。
そう思うと思わず身体がすくんだ。
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