2019/4/12 「旧友からのメール」
校舎の外に出るともうすでに空は赤みがかっていた。運動部の部員たちが用具の片付けをしているのを横目に足早に駅へと向かう。ホームに降りるとちょうど山手線の車両が滑り込んでくるところだった。
ぼくが通う私立染井学園は、RJ山手線と都営地下鉄三田線の巣鴨駅から徒歩3分の場所に位置する、一応は名前の通った中高一貫の進学校だ。
ちなみに都内の中高一貫の御多分に漏れず共学ではなく男子校。ただ、ここ数年進学実績がぱっとせず、落ち目と言われているけれども。
ドアの上のディスプレイでは、来年に迫った東京オリンピックに関連したCMが盛んに放映されている。時折マイナンバーカードに我が社のポイントカード機能を付与することができますというCMが挟まれる以外はすべてオリンピック関連のCMだ。
といってもスポンサー企業のオリンピックで使用される当社の技術についてってやつが大半なんだけども。
池袋駅で湘南新宿ラインに乗り換え、自宅のある浦和駅を目指す。
学ランのポケットからスマートフォンを取り出し、暇つぶしを兼ねてSNSをチェック。惰性で目を通すも、特に面白いものはない。
ふと顔をあげると、電車はいつの間にか赤羽駅に到着しており、ちょうどドアが閉まるところだった。
電車は段々と速度をあげ、東京都と埼玉県を隔つ荒川。それを渡る黄緑色のトラス橋に差し掛かる。
SNSのアプリを閉じ、次にメールを確認する。
大量の宣伝の他に通販サイトからコンビニ受け取りの準備ができたという内容のメールと懐かしい名前からのメールが届いていた。
ガタンゴトンとひときわ大きな走行音を響かせながら電車がこの東京都と埼玉県を結ぶ橋を渡るとき、”帰ってきた”というどことなくほっとする感覚を毎回覚える。
地元さいたまの公立小学校から、東京都内の私立中学へ。
電車で片道1時間弱の通学コースに案外堪えているのかもしれない。
小学校以来の懐かしい名前。
「
小学生の頃はそれなりに仲良かったと思う。
思春期が始まったばかりのあの時期に、男女のペアは散々からかわれたけれど。
彼女がぼくの転校してしばらくの間は一緒に帰った。それから暫くの間もよく会っていた。
疎遠になった原因は何だったろうか。細かい理由はいろいろあった気はするけれど、世間的に見れば学校が別れたから、ということになってしまうんだろうか。
なんとなく、通販サイトからのメールを先に見ることにした。
女の子からのメールに妙なプレッシャーを感じてしまうのは、男子校生の悲しい性だ。
そこには、注文の品を地元のコンビニまで配送したからあとは受け取りよろしくという機械的な文面と一緒に、受け取りようのコードが添付された短いメールはあっという間に最後までスクロールし終えてしまう。
受信トレイに戻る直前、読み落としていたメールの一文が目に入った。あれ、代引きで注文したんだっけ。お金たりるか?・・・まぁコンビニで下ろせばいいか。
走行音が元に戻り、電車は橋を渡り終え埼玉県へ入る。窓の外では沿線風景が高速で後ろに流れていく
『水上くん、久しぶり。元気にしてる?』
幼女からの1年ぶりのメールはそんな非常にあっさりしたものだった。
「幼女の方こそどうなんだよ」
いつも無愛想だったお前なんかとは違うんだと、ウィットに富んだメールを打とうと意気込むものの、何も文章が思い浮かばない。
彼女も中学へ上がってやはり変わってしまったのだろうか。それとも今も小学生の頃とあまり変わらないんだろうか。
画面に表示された短いメールの文面は彼女自身について何も教えてくれない。
結局、まっさらなメールアプリの文面とにらめっこをしているうちに電車は浦和駅へと到着した。
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