#S-1 スクリプトキディ 「私立染井学園印刷室」
2019/4/12「カードプリンタ」
「JECへサイバー攻撃 ATM設計情報流出か」
12日、JEC(ジャパンエレクトリック株式会社)は同社の子会社、JECプラットフォームズがサイバー攻撃を受け多数の内部情報が流出したことを明らかにしました。
現在ATMやPOSシステムなど、同社製品の仕様書やソフトウェアのソースコードなどといった設計情報の流出が確認されています。ただ、顧客情報の流出は確認されていないとし、同社は「お客様に影響はない」としています。(JHKニュース 2019年4月12日金曜日 15時43分)
あまり中学2年生になった自覚がないまま、今年度最初の1週間が過ぎ去ってしまった。Time Fliesとはまさにこの事を言うんだろう。
半日授業も今日で終わり、来週から通常通り丸一日授業があると思うと少し憂鬱な気分になる。
印刷機が単調な駆動音とともに大量のA3用紙を吐き出していく。A3カラー両面で1700枚、全校生徒分を印刷するとなると毎秒1ページの印刷速度を誇るわが校の最新鋭オンデマンド印刷機でも、単純計算で1枚につき両面で2秒が1700枚で3400秒、1時間弱かかる計算になる。
6畳ほど窓のない部屋には、ぼくが所属する新聞委員会発行の染井学園新聞を絶賛印刷中のそいつ(業務用のでかいプリンタって思ってもらえれば大体あってる)、の他に巨大なポスター何かを刷れる大判プリンタ、ヘタすれば腕も切断できそうな巨大な裁断機、そして学生証を作成するためのカードプリンターといった印刷機材が所狭しと並べられている。
いかにも業務用といった雰囲気のこの部屋をぼくはそこそこ気に入っている。
けれど、部屋の中央に設置された机の上に置かれた印刷用PCのディスプレイの、ようやく3/4ほど進行したプログレスバーの表示を見て思わずため息をついてしてしまうのは仕方がないことだと思う。中等部の最終下校時刻がだんだんと近づいてくる。
ちなみに本来の予定であれば、新入生のための部活紹介が視聴覚室で行われる今日の朝に、この部活紹介特別号が”配布”される予定でだった。けれども、原稿と写真素材が全て揃ったのが昨日の放課後。そこから編集作業に入り、紙面が出来上がったのが今日の朝。そして、顧問の先生から最終的なOKをもらったのがつい1時間前。
配布は3日遅れて来週の月曜日にかな。
顧問の伊藤先生の名誉のために言っておくと、別に先生は悪くない。なんなら朝早くから登校して待っててくれた。
全ての責任は、〆切を盛大に破ってくれたバレー部と、公序良俗に反する紹介文を送ってきたサッカー部にある。
ちなみに我が染井学園では数年前に情報システムの刷新とともにペーパーレス化が進められたそうで、現在事務室の奥の狭い部屋に追いやられたこの印刷室の利用者はあまり多くない。最も現在中2のぼくにとってはこれが最初から当たり前のことなんだけれど。
持ってきた文庫本はもう読み終わり、電子教科書用のタブレットは電池切れなうえに充電器を忘れ、もう何もやることがない。
「水上くん、お疲れ様」
ドアが開き事務員さんの1人、風見さんが入ってきた。
20代後半のオタクっぽい風貌をした・・・じゃなかった、機械に強そうな感じの男性で、この部屋の管理責任者だ。
「お疲れ様です!、風見さん」
慌てて立ち上がり挨拶をする。
「そのままで良いよ、と言いたいところなんだけどすこしかわってくれるかな」
「わかりました」
脇にずれ、風見さんがPCを操作するのを横目で眺める。カードプリンターの印刷画面を立ち上げ、持ってきたメモを見ながらデータを入力する。
「誰か学生証失くしたんですか?」
「そうなんだよ。もっと大事に扱って欲しいんだけどね。」
カードプリンターのカードトレイを開け、何も印刷されていないプラスチックカードをセット。カードプリンターが唸り声を上げる。
カードプリンターの印刷速度、結構早い。
数秒で赤を基調とするデザインの学生証を吐き出した。
「この後用事があってね、終わったらこの部屋の鍵いつもの場所に戻しておいてくれないかな? 事務もいま全員出払っててね」
「わかりました」
そのままになっていたカードプリンターの印刷画面を閉じると、ちょうど印刷機が最後の新聞を刷り終えた。
PCをシャットダウンし、排紙トレイから刷り上がった新聞を部屋の中央の大きな机へ移す。
新品の用紙は、みんなが思っているほど軽くはない。この時自分の力を過信して一度に多く新聞を持ちすぎると、紙の重みでそれらを床にぶちまけることになる。
おまけに縁がまだ鋭いから、油断すると指を切ってしまうことになる。去年何回かそれをやったせいで、僕の通学カバンには常にバンソコウが常備されている。
新聞の配布は月曜日の朝、別の委員がすることになっている。
印刷室に鍵をかけ、部屋を出る。
そして隣接した事務室のキーハンガーに鍵を戻し、事務室をあとにする。
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