#G-1 ゲームマスター 「水飲み場型攻撃」

2019/04/08 「水飲み場型攻撃」



「うーん」

「どうしたのお兄ちゃん」

 8畳ほどのダークブラウンで統一された部屋。その一角にある3面のディスプレイを見つめる青年と少女。壁際に設置されたメタルラック、その中に設置された何台ものタワー型のデスクトップPCが唸り声を上げている。

「ターゲットがなかなかあらわれない。」

 渋い顔をする青年の横で、少女は画面を覗きこむようにして見ていた。中央のディスプレイにはあるwebサイトの他に、真っ黒い画面に白い文字が表示される、CUIでコンピューターを操作するターミナルと呼ばれるソフトウェアが表示されていた。

「全銀システムをクラッキングするの?」

 そのターミナル上には全銀システムWebサイトのURLとともに、幾つものIPアドレスがリストとなって表示されている。 

 全銀ネット、正式名称全国銀行資金決済ネットワークは日本国内全ての金融機関が接続する、各金融機関同士で資金などのやり取りを行うための、全国規模の情報ネットワークだ。

 ちなみに銀行間の振り込みが当日15時までしか受け付けてもらえないのも、振込時の名義人表記にカタカナしか使えないのも、全てはこの全銀ネットがこれらに対応していないためである。

「広報用のWebサイトハッキングしたところで、システムそのものにアクセスするのは無理だよ。第一、そういうシステムはネットから切り離されてるから俺みたいな市井のハッカーにハッキングは不可能だ。」

 リストに表示されるIPアドレスが度々追加されていく。

「ふーん」

 少女は青年の話を理解したのかしていないのか、曖昧な返事をする。

「おっ」

 ターミナルに赤く色分けされた新たな行が追加される。

「ターゲットが罠にかかったぞ。」

 新たなウィンドウが幾つも開き、それぞれで何らかの処理が走る。

 青年はキーボードとマウスを操作し、それに応じてディスプレイの表示内容が

せわしなく変化していく。

 全銀ネットのWebサイトにアクセスしてきたターゲットのPCを踏み台に、ターゲットの所属する企業の社内ネットワークに進入する。

「営業部のアカウントか、まあ流石にそう都合良くはいかないか。」

 ターミナルにいくつもコマンドを打ち込んでいく。バックドアを構築し、営業部のアカウントからサーバーの管理者権限へ権限上昇。社内ネットワークを走査する。

「開発部門は、これだな」

 ファイルサーバーにアクセスしファイルの一覧を表示する。

 目的のファイルを選択して、それらを圧縮しネット上へ転送するコマンドを投げ込む。

「あとは転送が終わるまでセキュリティ担当に見つからないことを祈るだけだ。」

 コマンドの進行具合を示すプログレスバーを見つめながら青年は想呟いた。

「これで、第1段階のJECからエイト銀行のATMの設計データを入手することに成功したってことでいいの?」

 プログレスバーが右端まで到達し、データの転送が完了したことを告げる。

「ああ」

 再び青年はキーボードに指を走らせ始める。

「第2段階つぎはたのむぞ、かなえ

「私を誰だと思ってるの、お兄ちゃん?」

 兄妹はお互いに不敵な笑みを浮かべあった。

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