戻る

 ぴしゃっ。母が三和土たたきに水を打った。途端に穿うがたれる黒。その奈落から目を背ける。ああ私、戻ったんだ。


 格子戸を引いた私の背に、母の低い声。


「ふうわりと、ぐいっと。あんた、違うように思えるんやろ?」

「うん」

「戻されることに違いはおへんえ」


 錆びたカーテンレールの下。くろがねの風鈴が、今の微風に身をふるわす。鳴音として垂れ下がる思慕の糸。それにすがって墜ちた亡者のように、私は……戻っている。


「七夕やね」

「うん」



【 了 】



+++++++++



見出し:ちりん……

紹介文:出戻り小景。

ゼロ・ウォーターさんの企画「二百文字の可能性を証明して!!」参加作品です。



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