四、作戦会議。なぜかサツキとお茶

 いつもの時間、いつもの場所。


 サツキの右手の痣は目立たないが、それでも痣だ。傷口の記憶と合わさって、痛々しく見える。


「痛い?」

「朝起きた時ほどじゃない。クラシマ君も左腕、どう?」

「大丈夫。じんじんしてたけど、もう治まってきた」


 物置の陰は涼しいを通り越して少し寒い。そんな季節になったんだと思う。


「ねえ、あの賢者っての、どう思う?」

「あいつらの話からすると、召喚指輪を作ったすごい人で、面倒くさい怪物がいる森の奥にいる。その位かな」

「ううん、まだある」

「ああ、精霊と意思を通じ合えるって言ってたな」

「そう、それ。だから、今のうちに何を言うか決めとかない?」

「うん?」

「だって、もし、話ができるチャンスがあったとして、その場になって迷うのはもったいないよ」

「そうか。そうだね。でも、言う事は決まってる。召喚をやめてもらいたいってだけだ」

「そこらへん、もうちょっと詰めようよ」


 サツキは少し言葉を切って続けた。


「帰りに、喫茶店にでも寄って作戦会議しない? 忙しくなかったら」


「わかった。じゃ、授業終わったら校門のとこで」


 俺はそう言った。頭の中では、そんな話し合いならメールとか、SNSでいいじゃんと返事しようとしていたが、何となく言えなかった。


 喫茶店、と言ってもほとんどファーストフード店のような作りで、客のほとんどが小腹を空かせた高校生だった。窓際の席を確保する。俺は紅茶。サツキはコーヒーにプチケーキ。


「召喚をやめさせる事以外になにかないかな」

 ケーキを片付け、コーヒーをかき混ぜて冷ましながら言う。

「その賢者とかいう人について何も分からないから、細かい事は決めようがないな」

「そう? でも、あの世界がどんな所なのか知りたいな」


 俺は頷いて紅茶を飲む。この会話、そばの人にはどう聞こえているのだろう。ゲームか、アニメや小説の話をしてるとでも思ってるんだろうな。それも、かなりオタク臭い。


「それと、前に言ってたけど、死んだらどうなるのっての、知りたいな」

「そうね。それはあっちの世界の正体とも関わりそう」

「他にも、俺たちが選ばれた理由とか」

「うん」

「できれば、あっちの世界の人とも話できるようになりたいな」

「なんで?」

「あのお姫様、可愛いじゃん」


「ふうん。クラシマ君、ああいうのが好みなんだ」

「うん、あの子、ちゃんと化粧したらこっちのアイドルとかモデル並みだと思うよ」

「そうかな。歯並びとか悪くない?」

「そりゃあ、まともな歯医者なんかないだろうし。でも土台は並以上だよ」


「まあ、いいわ。そんな話。じゃ、そろそろ」


 店を出て、分かれ道まで一緒に歩いた。日が暮れ、風は冷たい。


「じゃ、さよなら」

「さよなら。右手、もう痛くない?」

「うん。クラシマ君は?」

「全然。じゃ」

「じゃあね」

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