冒険者 と 依頼人 と クランハウス

「こんにちはー!」


 クランハウスの表口を開けて、見知らぬ人が入ってきた。

 その人はカウンターの中にいる、ジラフ爺さんを見つけて「お久しぶりです」と手を振る。ジラフ爺さん――クランの受付担当で元冒険者のお爺さん――はにっこりと笑った。


「やあ、リッツさんじゃありませんか。オータ村には変わりありませんか?」


「相変わらず、貧乏暇なしですよ」


 オータ村、オータ村……聞いたことあるぞ。僕のトラン村とは交流ないけど、ハーフェンの町と取引のある村の一つだったはず。


「オータ村でも、そろそろ草むしりの頃合いですか」


「ええ、そうなんですよ。面倒ですけど、やらないわけにもいきませんし。それで、今年も『砂漠のオアシス』さんにお願いしようと思いまして」


 ……草むしり?

 へえ、冒険者って、そんな仕事もするのかぁ。危険もないし、地味だし……って、もしかしてこの仕事、引き受けた場合、僕が派遣されるんじゃないの? ダルマロックさんも「新人のうちは何でもやれ、何でも経験だ」って言ってたし。


「はっはっは、これは嬉しいですな。ではさっそく依頼の内容を詰めましょう」


 ジラフ爺さんに指示されて、僕は急いで階段を上がり、資料庫から言われた巻物を持ってくる。

 それを渡すと、バラリとカウンターの上に広げながら、リッツさんという村の人と話し合う。

 すぐに話はまとまった。


「例年通りで良いでしょう。であれば、すぐにパーティを見繕って送り出しますよ」


 ジラフ爺さんが、一瞬チラッと僕を見る。

 うわぁ、やっぱり僕が行くのか。まあ、べつに嫌ってわけじゃないけど……草むしりかぁ。


「よかった、これで安心して村に帰れますよ」


 足取り軽くクランハウスを出ていくリッツさんを見送ってると、ジラフ爺さんが言った。


「さあ仕事だぞ、トーランドット。ダルマロックを呼んできなさい」


「はいっ!」


 すぐに僕もクランハウスを飛び出したのだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 >――――――――――――――――――

 >『依頼人はクランハウスのドアを叩く』

 >――――――――――――――――――


 冒険者はクランに所属しています。

 ですから、冒険者を雇いたい依頼人は、クランを訪問します。

 そこでクラン側も、依頼人が来やすいように、クランハウスを構えます。

 いわゆる『冒険者の店』(by『ソードワールドRPG』)と呼ばれるものに近いのが、クランハウスです。


 冒険者の店と、クランハウスとの違いは、


 ・オーナーがクラン自身なので、基本的に冒険者側に立った存在である。(冒険者の店の場合、店のオーナーは、依頼人と冒険者の仲介をする、中立の立場です)


 ・クランメンバーに(良心価格で)部屋や倉庫を貸すことはするが、一般人向けに酒場や宿屋をやっているわけではない。(冒険者の店の場合、むしろ酒場や宿屋が本業という場合もあります)


 ……といった所でしょうか。




 >―――――――――――――――――

 >『開いててよかった、クランハウス』

 >―――――――――――――――――


 クランハウスには、いつ依頼人が来ても対応できるように、受付が常駐しています。(受付の人は、引退した元冒険者が多いようです)

 そして、大抵は24時間営業です。


 というのも、やはり冒険者の仕事というのは、非日常的なものも多いです。いつどこで緊急事態が発生して、依頼人が駆け込んでくるか分かりません。


 そして何より重要なのは、いつメンバーが冒険から帰還するかもしれない、ということです。夜中だからといって、仲間を締め出すわけにはいきません。

 しかも、もしかすると大怪我をしたり、毒に冒されたりした状態で帰ってくるかもしれません。

 そのため、常に受付で待機しているのです。「いつでも依頼人に対応できる」というのは、これに比べれば、オマケのようなものかもしれませんね。


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