クラン『砂漠のオアシス』
ハーフェンの町には3つの
1つ目は、老舗の『百獣の王』。どんな依頼でもやりこなす、実績のあるクラン。
2つ目は、護衛専門の『動く砦』。ハーフェンを訪れる旅商人たちの御用達で、領主さまにも重宝される。
3つ目は、裏町を牛耳る『裸足の女神』。いわゆる「違法じゃないけど大きな声では言えない」ような依頼が舞い込む。
楽器を抱えた陽気な男の人が、まるで歌うように朗々とした語り口調でこの町のことを教えてくれる。
でも、あれ?
「……ねぇねぇ『砂漠のオアシス』は?」
「いい質問だね! 残念ながら、我らがホームはまだ
えーっ、せっかく入ったのに!
「心配無用さ、未来の勇者くん! そう、君が活躍すれば、一躍ここもメジャーの仲間入りするさ!」
ええっ! どうして僕が勇者だって知っているんだろう?
不思議に思っていると、唐突に弾き語りを始めてしまった。
朗々と「おお若者よ」「未来の勇者よ」「お前たちはいま夢の扉を開いた」「冒険者という道の先できっとお前の夢が叶う」などと歌い上げていく。
「明日には英雄となる者たち」
「大きすぎる夢を抱えた者たち」
「いざ集え」
「いざ語れ」
「"夢を叶える"クランはここにある」
「『砂漠のオアシス』はここにある」
すっごい上手!
なんでも、冒険者・兼・吟遊詩人で、旅芸人一座を飛び出してきた人なんだって。
「ご清聴、感謝」
僕がいっぱい拍手をすると、上機嫌でお辞儀を返してくれた。いいなぁ。詩人って、かっこいい気がする。
「僕は"冒険詩人"なのさ! すべての冒険は、物語になるのさ! 僕は、僕の冒険を物語にして、皆に聞かせるのさ!」
「聞きたいです!」
ところが残念ながら、まだお金を取れるような冒険物語は生まれていないんだって。仲間の元・軽業師の人が、「こいつってば演奏は大胆なのに、冒険はやたら慎重派でね」と肩をすくめると、その隣で元・怪力男さんがコクコクと頷いていた。
ふんふん、と頷きながら、質問してみる。
「ねぇ、さっきの"夢を叶える"、っていうのは?」
そんな僕の質問に答えてくれたのは、団長のベルベット2世さん。
2世って、まるで王様みたいだと思ったけど、団長さんは、先代のお父さんから、このクランと通り名を受け継いだんだって。だから2世なんだって。
「世間じゃ、冒険者っていっても、所詮は金で動く便利屋だと思われてる。でもそうじゃない。俺たちは、金なんかじゃ動かない。冒険者が動くのは、自分の夢のためだ。そうだろう?」
「はいっ! 絶対そうです!」
手を挙げて賛同すると、団長さんは満足そうに頷いた。
「『砂漠のオアシス』に所属する冒険者は、夢がなくちゃいけない。そして、冒険に出るときは、いつだって自分の夢を叶えるため、目指す冒険者の姿に一歩でも近づくためでなくちゃいけない」
「そうさ! ゴブリン退治だって、喜んでやったさ! 報酬は雀の涙だったけど、大怪我もしたけど、やったさ! なぜならそれは、怖がる村人に安心の笑顔を取り戻してあげるのが、僕の目指す冒険者の姿だったからなのさ!」
「うわぁ、すごいです!」
かっこいい!
弱そうだけど、でも、かっこいい気がするよ!
「では訊こう。お前の、トーランドットの夢は、何だ?」
「……ゆ、勇者になること!、です!」
僕の宣言に、皆がびっくりした顔をする。冒険詩人さんも。あ、やっぱり皆、知らなかったんだ。僕が、実は、勇者だっていうことを。
どうしよう、言ったほうが良いのかな?……とおもっていたら、2世さんが大きく手を打った。パァン、と鳴り響いた快音にびっくりしていると、笑顔でこう言われた。
「それは素晴らしい! いいか、トーランドット。この俺の夢はな、親父の夢を叶えてやることなんだ」
へぇ、お父さん想いなんだ。
「そして、俺の親父の夢はな、いいか……『このクランから勇者を輩出すること』だったんだ!」
「ええっ!?」
びっくりした。
何がびっくりって、勇者は自分でなるものだと思っていたのに、まさか、他の人が勇者になるのを手伝いたい、なんて思っている人がいたなんて。
「どうやらこのクランと、お前の夢は、相性バッチリみたいだな。おいダルマロック、これは良い人材を連れてきてくれたじゃないか。感謝する」
「なぁに、こっちこそだ。先代の夢をお前が継いでくれていて嬉しい。ここの雰囲気も変わってなくてホッとする」
「変わってたまるか! ……皆、この子の夢に文句はあるか? ないな? よし、それでは未来の勇者トーランドットの入団を祝して……乾杯!」
「かんぱーい!」
こうして僕に、冒険仲間が出来ました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
>――――――――――――
>『クランには個性がある』
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クランには個性があります。ですから、冒険者になりたい貴方。
まずは、自分にぴったりのクランを探しましょう。
どこに入ろうかと決めかねたときのチェックポイントは「そのクランが掲げている理念」です。その理念に共感できたら、貴方が入るべきクランは決まったも同然です。
そして次に、どうやったら入団できるのか調べましょう。
まともなクランなら、質問すればちゃんと教えてくれます。これこれこういう手順を踏んでくれれば入れるよ、と。
あとは貴方のやる気とがんばり、あとは運と才能と……いろいろ次第です。
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>『ハーフェンの町の有名クラン』
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ハーフェンの町にあるクランについて、もう少し詳しく紹介しましょう。
ハーフェンの町はこの地方の中心的な都市で、冒険者も大勢集まってきます。
町にホームを構えるクランはいくつもあるのですが、その大半は泡沫クランです。(泡沫=水の泡=いつ消えてもおかしくない)
結成から一年も経たないで消えてしまうクランもあります。
そんな中で、町にしっかりと根を張っているのが、三大クランと呼ばれる、ご当地の
有名クランの筆頭が『百獣の王』です。
町の大通りに
どんな依頼でもどんと来い、という王道スタイルで、毎日のように依頼が舞い込み、大勢の団員が走り回っています。
団長は"白獅子"のマイルディック。齢五十歳を超えた今もなお現役という大ベテランで、多くの冒険者にとって憧れの大先輩です。
人が集まれば、そこには揉め事が生じます。それが冒険者なら、なおさらです。クランが大きくなるほど、そういう内輪揉めをどう解決していくのかが常に問題になるのですが、『百獣の王』の場合、団長のカリスマ性によってまとまっています。
マイルディックは町の名士であり、領主から騎士の地位を与えられています。しかし本人は、あまりそういうことに興味はなさそうです。
二番手に名前が挙がるのが『動く砦』です。
団長は"二枚盾"のヨーデルツェント。彼が指揮をとった護衛任務で、依頼人に犠牲が出たことは一度もないといいます。
『動く砦』は護衛任務を専門に引き受け、それ以外には手を出しません。(護衛ではない依頼の申し出があると、他のクランを仲介してあげています)
同じ町に『百獣の王』があるので、自分たちは「護衛」というジャンルに特化することで差別化し、町でのポジションを確立したのです。
ハーフェンは東西南北から商人が訪れる交易都市の一面があるので、顧客は尽きることがありません。ヨーデルツェントは優秀な護衛であると同時に、優秀な経営者でもあるようです。
厳しい入団試験を課すクランでもあります。
ちなみに"二枚盾"の二つ名は、盾を二枚装備しているから、ではなく、以前に護衛任務中に盾を失ったとき、自分の身体を盾に使ってでも護衛対象を守った、というエピソードに由来します。
三大クランの最後に来るのが『裸足の女神』で、裏通りの空気といいますか、ヤクザとかマフィアっぽい雰囲気を持つクランです。
しかし、決して犯罪者集団ではありません。彼らは、裏社会と一般人との間を穏便に取り持つような活動しています。そういう意味では、私立探偵のほうがイメージが近いかもしれません。
ドロボウに金品を盗まれたとか、子供がいなくなったとか、送ったはずの商品が届かないとか、そういうトラブルを抱えた人が『裸足の女神』を頼るのです。
リーダーの"美魔女"のローエンターナは年齢不詳の美女です。彼女は元娼婦という異色の経歴を持つ冒険者です。
男性関係のウワサが絶えない女性で、とりわけ根強いのが「じつは領主の愛妾である」というものと「じつは裏社会のボスの妻である」というものです。彼女自身は否定も肯定もしません。
実のところ、どちらのウワサも不正解です。
彼女にとって一番大切な人は、彼女が引き取って面倒をみている身寄りのない子供たちなのですから。
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