冒険者 と クラン

 僕はトト……じゃなくって、トーランドット。冒険者だ。

 もう一度いっちゃおうかな。トーランドット、冒険者だ!

 えへへ。


 さて、村を出た僕は、ダルマロックさんの案内で、ハーフェンという町にやって来た。

 ハーフェンは領主さまの城もある、この辺りでは一番大きい町だ。

 当然、冒険者になるならこの町から。ダルマロックさんもオススメだっていうし、僕もずっと前からそう思っていた。


 大きな壁の、大きな門をくぐると、ずーっと先まで続くレンガ造りの町並みが視界いっぱいに広がる。

 町の中は、たくさんの人が歩いていて、もしかするとこの中には冒険者がいるんじゃないかと思えて、もう、ワクワクが止まらなかった。


「あれ? どこ行くの?」


 さっそく、武器屋に行こう!……と思ってたのに、ダルマロックさんはさっさと看板を通り過ぎて、横道に入っていっちゃう。


「冒険者になるんだろ? だったら最初に行く場所は決まってる」


 わあ、なんだかすごく慣れてて、プロって感じがする!

 そうか、まず武器屋に行くなんて、シロートのやることってわけ? よし、今度から絶対に武器屋は後回しにしよう!

 でも、じゃあどこに行くんだろう? 防具屋? あ、薬屋かな?


「着いたぞ。挨拶しっかりな」


「うん! ……どこ?」


 防具屋でも薬屋でもない建物のドアを開いて、ダルマロックさんが振り返ってニヤッと笑った。


「ようこそ、新人。冒険団クラン『砂漠のオアシス』へ」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 >――――――――――――――――――――

 >『冒険のはじまりは冒険団(クラン)から』

 >――――――――――――――――――――


 冒険者は、まず冒険者ギルドへ行く。

 そんな風に思ってはいないでしょうか?

 ですが冒険者になろうという者が、まず最初に関わるであろう組織、それは「冒険団」――いえ、「クラン」と呼ぶ方が馴染みが良いかもしれませんね。


 ちなみにギルドは、クラン同士の利害調整をしたり、冒険者と一般社会(依頼人や権力者など)とを仲介するための互助組織であって、新人の面倒をみたり、新人に仕事を紹介したりする組織ではありません。

 分かりやすく、学校で例えてみますと――


 ・クラン=部活 や 委員会


 ・ギルド=生徒会


 ――という感じになるでしょうか。

 あるいは一般社会に例えてみますと――


 ・クラン=企業 や 農家


 ・ギルド=お役所 や 農協


 ――という感じになるでしょうか。



 さて、冒険者が所属するのはクランです。

 そして、冒険者を志す者が考えるのは、「どこのクランに入ればいいんだろう?」ということ。


 冒険者を、スポーツ選手や芸能人に例えるなら、クランは、Jリーグのチームや芸能事務所だと考えれば、さらに分かりやすいでしょうか。

 Jリーガーを目指す人が「どのチームに入ろう?」と悩んだり、お笑い芸人を目指す人が「どの芸能事務所に入ろう?」と悩むのと、一緒というわけですね。



>―――――――――――――

>『クランに入団するには?』

>―――――――――――――


 冒険者を志す人は大抵、自分の入りたいクランに、目星をつけているものです。

 クランは、町に拠点を持ち、そこを中心に活動しています。

 その活動範囲においては、それなりにクランの名前も知られているものです。(クラン側としても、信用や仕事が欲しいですから、それなりに名を売るように心がけます)

 近隣の町や村では若い連中が、「俺はあのクランに入りたい!」「俺はこのクランがいい!」などと話していることもあるでしょう。


 入りたいクランが決まったら、次は「どうやったらあのクランに入れるんだろう?」ということ。


 おそらく、紹介してくれる人を見つけるのが一番スマートな入団方法でしょう。(トーランドットは、ダルマロックの紹介、という形でクランに入ることになりました)



>――――――――――――――――――

>『新人に対するクランの方針いろいろ』

>――――――――――――――――――


 新人冒険者に対する対応は、クランによってまちまちです。



 まず、「条件なし、いつでも誰でもウェルカム」というクラン。

 これは滅多にありません。

 これから冒険者になろうという人は普通、シロウトです。そして、シロウトを仲間に迎え入れるのは、クランにとって負担になります。

 仲間が増えることのメリット以上に、面倒をみるのが大変というデメリットがありますし、もしもシロウトが不祥事を起こせばクランの責任も問われるというリスクもあるからです。


 もし、それでもなお、「条件なし、いつでも誰でもウェルカム」というクランがあるなら、きっと何か理由があるのでしょう。

 たとえば、「救いを求める信者には必ず手を差し伸べる」というような宗旨を持っている巨大宗教組織が運営しているクランとか。



 逆に、「入団は一切受け付けてません」というクラン。

 これは案外、少なくない気がします。

 たとえば仲の良い少人数のグループが立ち上げたようなクランの場合、あえて新人を入れる必要はないですし、下手に入れると、それまで上手くいっていた人間関係のバランスが崩れて、大変なことになってしまいかねません。

 冒険者はしばしば命の危険がある職業ですから、厄介事はできるだけ避けたいでしょう。



 そして、「特定の条件を満たせばOK」というクラン。

 やはりこれが普通のクランでしょう。


 そして、一番多い「特定の条件」は、いわゆる「紹介者が必要」というものでしょう。

 基本的に歓迎するけれど、どこの馬の骨とも分からない怪しい人間は困る、ということですね。


 他には、「ウチの町は冒険者が不足している! とにかく冒険者を増やしたい! でも根無し草では困る!」と思っている領主がスポンサーとなって運営しているクランであれば、「誰でも歓迎、ただし領民だけ」という条件を掲げているかもしれません。


 入団試験を課すクランもありそうですね。実力さえあれば、という。

 しかしこれだと新人は入り難いでしょう。兵士の経験がある、とか、別の町で冒険者をやっていた、とかでないと。

 まるで会社でいう、中途採用みたいですね。


 冒険者という職業柄、いきなり飛び込みで「入れてください!」と頼むのもアリかもしれません。

 そういう飛び入りを歓迎してくれるクランもあるかもしれません。「その度胸が気に入った!」みたいなことで。


 場合によっては「入団手数料」などと称して、お金を要求するクランもあるかもしれません。もっとも、そんなクランは、ろくなもんじゃないでしょうけれど。

 ……こういうサギ、実際にありましたよね。

 リストラされて再就職を希望している人に、「わが社に入りたい? ええ、歓迎します。ところで、会社に出資してくれませんか? 出資額が多い人から順に、偉い役職に就けます。いきなり部長、とかも可能です。自分の会社に投資することで、真剣に働けるでしょう? それに自分より出資額が少ない人が自分の上司っていうのもイヤでしょう?」……なんて言って、お金をだまし取って、会社はすぐ潰れて、みたいな。

 ホント、ろくなもんじゃないですね。

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