冒険者 と 草むしり と ゴブリン

 僕は、ダルマロックさんに連れられて、ハーフェンの町を離れ、オータ村の近くにある森に入っていた。

 そう、先日の「草むしり」の依頼を受けて、いざ冒険にやってきたのだ。


「いたぞ……"はぐれ"だ」


 囁き声が、小さな風に乗って、僕の耳に流し込まれる。

 ダルマロックさんは「俺の"風"は恥ずかしがり屋なんだ」と教えてくれた。そのおかげで、ナイショの会話は得意技だ、って。


 "はぐれ"っていうのは、群からはぐれたゴブリンのこと。

 僕たちの目標はこいつら、ゴブリンだ。こいつらを狩れるだけ狩るのが仕事だ。


 そうなのだ。つまり「草むしり」というのは、この「ゴブリン狩り」のことだったのだ。

 なんでも、農作物の収穫の時期が来る前に、エサを求めて畑を荒らしに来るゴブリンを狩るのが「草むしり」だそうで。

 僕の村では無かったけど、ゴブリンの生息地が近い村だと、恒例行事なんだって。


 ……ったく、もう。だったらそう言ってくれれば良かったのに!

 本当に草むしりをするんだと思って、その準備をしてたら、ダルマロックさんに大笑いされちゃったよ!


「近くにはいない。一匹だけだ。……トーランドット、ゴブリンのこと、覚えてるな?」


「はい。僕と同じくらいのチビで、僕より狂暴で、僕よりバカ」


「そうだ。バカの相手の仕方は?」


「長物で突く。近づいてきたら盾で守る。離れて、また長物で突く」


「近づいたまま離れてくれないときは?」


「えーと、守りながら、仲間を待つ。僕を狙えば仲間がやってくれる。仲間を狙えば僕がやる」


「仲間がいないときは?」


「バカが疲れるのを待つ。疲れてきたら離れて、長物で突く」


「そうだ、バカはすぐ疲れる。……よし、あとはそれが実践できるかどうかだ。得物を出せ」


「はい」


 ダルマロックさんの選んでくれた槍。それを右手に持ち、左手の盾を確認して、身構える。


「行け」


「はい!」


 僕は木陰から出て、ゴブリンと対峙した――。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 >―――――――――――

 >『冒険者とモンスター』

 >―――――――――――


 冒険者の永遠のライバルであり、ある意味では良き相棒とさえ言えるもの、それが「モンスター」です。

 冒険者にとって、好むと好まざるとにかかわらず無関係ではいられない存在ですが、さて、モンスターとはいったいどれほど恐ろしい存在なのでしょう?


 ライオンやクマのような猛獣とたいして変わらない程度、なのでしょうか?(それでも充分に恐ろしいですが)


 人間と生息圏ナワバリを賭けて争うライバル、なのでしょうか?


 あるいは、いつ人間を滅ぼすかも分からない恐ろしい天敵、なのでしょうか?



 ――たとえば『ファイナルファンタジー』では「悪いモンスターよりも、悪い人間のほうが怖い」という世界観ですし、

 『ドラゴンクエスト』だと「ときにライバルであり、ときに友人である」という世界観ですね――



 この答えは、モンスターの役割を考えると見えてきます。

 ファンタジー世界のお約束として、「冒険者」と「モンスター」がワンセットである、としました。

 そして冒険者を主役とする以上は、モンスターは冒険者にとって、良き"引き立て役"であるべきです。(逆に、冒険者がモンスターの恐ろしさを演出する良い"エサ"にされる物語もあるでしょう)


 つまり、


 ・一般人にとっては恐ろしい存在

 ・だけど、天敵というほど圧倒的ではない

 ・モンスター退治の専門家(=冒険者)なら対処できる


 ……と、これがファンタジー世界における、モンスターなのです。

 別の言い方をするならば、「冒険者がモンスターを倒すと、(自分でモンスターを倒せない)一般人たちに感謝してもらえる」くらいの強さ、とでもいいましょうか。



 >―――――――――

 >『ゴブリンの脅威』

 >―――――――――


 冒険者とモンスターは、ライバル関係です。

 よって、強い冒険者が現れれば、それ相応の強いモンスターが現れますし、逆に、弱い冒険者の前には、弱いモンスターが現れるのです。


 初心者にとっては、ゴブリンあたりが恰好のライバルとなるでしょう。


 そのため、ゴブリンはファンタジー世界から消えることがありません。押しも押されもせぬ"やられ役"の名人であるがゆえに、その立場は揺るがないというわけですね。

 もしもゴブリンが消える日が来るとするなら、それは、ゴブリン以上に使い勝手の良いザコモンスターが台頭してきたときでしょう。


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