時空超越ヴァンガイザー

@ikki_728

序章

さんさんと輝く太陽。


涼しげな風と共に流れていく小川。


そんな風景を思い浮かべながら、青木勇あおきゆうは明日の登校日に提出しなければならない課題に悪戦苦闘していた。


今日は8月31日。夏休み最後の日である。


部屋にはテレビとノートパソコンがおいてあり、パソコンのモニターには、昔懐かしいロボットアニメが映し出されていた。二体のロボットが街中で激しいぶつかり合いを繰り広げている。


月額数百円の課金で、多数のアニメが全話見放題になるサービスだった。ロボットアニメのみならず、美少女アニメ、特撮、アニメーション映画まで幅広く対応している。


しかし、1日の時間は限られているし、とてもじゃないが、夏休みの期間を利用しないと50話以上ある作品を複数全話視聴するなんて難しい。


特に用事のないときは自室にこもり、ロボットアニメを視聴する毎日だった。


どうやらそのツケが回ってきたようだった。


他の課題は全て終わらせていたが、明日提出する課題のことは、すっかり忘れていた。


小学校の頃は自由研究や絵日記など楽しい思い出も多かったが、高校生にもなると家族ぐるみで出かけることもなくなり、夏の河原でバーベキューといった楽しい団欒は自然と消滅していった。


かつては可愛い幼馴染も二人ほどいた記憶があるが、


「あんたとは幼馴染だから遊んであげてるだけなんだからね。こーんな可愛い美少女とバーベキューしてるからって、勘違いしないでよね!」


という小学生にしてはなかなかシビアな台詞を突きつけられ、その言葉は数年後には現実のものとなった。

現実とはこうも厳しいものなのか。昔は女の子とワイワイ楽しく遊んだ過去を振り返りながら、勇は肩を落とした。


「あーあ。この夏休みが一生続けばいいのにな。まだまだ暑いのに学校なんて行ってられるか」


誰もいない自室だったが、勇は不意にそんな言葉を呟いた。


「ロボットを操縦して、それで生活までできたら最高なんだけどな」


冷房をフルパワーで稼働させているせいか、身体が重かった。その重さを跳ね飛ばすように、ぐっと膝をついて立ち上がる。


「どっか出かけるか」


気分転換に散歩でも行こうと思い付き、普段着に着替えた。エアコンやパソコンのスイッチを切り、家を出る。


ずっと冷房で冷やされていた身体に、アスファルトの道路からの熱気がのしかかる。


勇は顔をしかめたが、そのまま歩き出した。


ひとまず徒歩10分圏内の公園へ向かおう、そう考えた。


昔から危惧されていた地球温暖化は、確実に地球の平均気温を上昇させているようだった。


風が吹くと少しだけ蒸し暑さはマシになった。


雲一つない青空を見上げながら歩いていると、大気を切り裂くブレードの音が聞こえてきた。


ヘリだ。


どうやら公園とは違う方向へ向かっているようだった。――何か事件だろうか?


公園には陸上競技用のグラウンドがあり、大会なども頻繁に行われている。そのため、この近所をヘリが飛行すること自体は珍しくもないことだったが、胸騒ぎがした。

この夏休み最終日の時期に、そういった大会もイベントも行われることはないからだ。


勇は、そのヘリを追うべく足を速めた。


***************************


ヘリの向かう先には、大きな暗闇ができていた。否、上空にとてつもなく大きな黒い穴が出現していた。


そのヘリはとあるテレビ局のヘリだった。搭乗するレポーターとカメラマンは驚愕を隠せなかった。


女性のレポーターは大声でマイクに向かって喋り始める。


「ただいま現場に到着しました。空に大きな裂け目のようなものが出現しています。こんなことがあり得るのでしょうか。現在のところ、どういった現象なのか全くわかっていません。専門家の方の意見が待たれます。現場からは以上です」


風に髪を揺さぶられながら、カメラに向かってそう伝えた。


ヘリはこれ以上の接近は危険だと判断したらしく、中継を終えて現場から離れていった。


勇も遅れて現場に到着した。


「なんだこれ……。こんなものが現実に起こるなんて」


その黒く歪な空間の裂け目は、どこか別の場所へと繋がる通路のようなものに思えた。


「まさかな……。ここから宇宙人が地球に攻めてきたりして」


自分の妄想に苦笑した。この一ヶ月で見たアニメに影響されたのかもしれない。


そんなことを考えていると、空間の裂け目から紫色のまばゆい光を放つ物体が飛び出した。


「――ッ!?」


思わず身じろぎした。


空間の裂け目ができているあたり一帯には、勇以外誰もいなかった。


その飛行物体はふらふらと上空を彷徨った後、一層強い光を放った。


瞬間、着陸して鉄の塊のような巨体へと変貌していた。


「マジで宇宙人かなにかかよ!?」


勇も思わず叫んでいた。


「あり得ない、あり得ない」


夏休み最後の日、突然空に大きな裂け目ができて、そこからとてつもなく大きなロボットが地球を襲いに来るだなんて。


ロボットアニメを見すぎて、頭がおかしくなってしまったのでは。


そんなことまで考えた。


だが、現実に目の前には大きないかにも街を破壊しそうな紫のロボットが立ちふさがっている。


空間の裂け目にふと目をやると、またしても強烈な光が飛び出してきた。


ものすごいスピードで、勇の前に突き進んでくる。


「おわっ!」


勇はたじろいだが、しっかりとその光を目で追った。


大きな土煙を上げて、勇の眼前に降り立った光がその姿を現した。


「かっけえ……」


勇は思わずそう口にした。


漆黒の装甲に身を包んだ巨人がそこにいた。


カシャン、カシャンとハッチが開き、中から赤い髪の少女が顔を出した。


透き通るような白い肌に勇は見とれたが、間髪入れず少女は、


「私、リリィっていうの。貴方、ロボットは好き? 乗って!」


と笑顔で声をかけてきた。


先に地上に到着した巨大兵器がゆっくりとこちらに動き始めるのがわかった。


この状況を食い止められるのは、勇しかいない。


躊躇はあった。夏休みの宿題なんて途端にどうでもよくなってきた。


だが今は、この状況を何とかするしかなかった。


力強く首を縦に振ると、差し出された少女の手を握りしめた。


「任せとけって! ロボットてのは、地球の平和を守るもんだ!」



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