第5話「ラーダルはタフな娘」
俺とラーダルは、兵舎横に設置された司令室にいた。
「まさか、タツヤがあんな発破をかけるなんて思いもしませんでしたよ」
「まあ、野球は声出しのスポーツだからな。ああいうのは、円陣組んでよくやってたから慣れてるんだ」
俺はそう言ってから、ラーダルに助けを求める。
「ただ問題なのが、俺は勝ち方のかの字も本当は知らないってことだ。たとえこの世界では勝ち運があったとしても、何も戦略がなきゃ相手の勝ち運持ちの異世界人にやられちまうぜ」
「でも、タツヤは野球のやの字なら知ってますよね?」
「ああ、50音ならやの字だけは知り尽くしてるよ」
「指揮官も野球の監督も同じですよ!如何にチームを率いることができるか。タツヤはその第一段階を乗り越えました」
「ラーダルは野球のルールとか分かるのか?」
不意に疑問に思い、尋ねてみる。
「はい!半年間、ずっと見てましたから!」
いや、仕事しろよ……。それが仕事だったのかもしれないけど。
「野球って、その状況毎に応じて、作戦だったりが変わりますよね?それってこういう場でも活かせると思うんです!」
野球の作戦を戦いに活かすか……。あまり、上手く行く気はしないけどなあ。
「ところで、相手のグアームド軍はどういう戦い方をしてくるんだ?」
「そうですね……、先ほど話した異世界人の指揮官、アタカイは、弓を使った遠距離攻撃と、馬を足に使う騎兵戦法を得意にしています。弓を装備した軽装備で馬に乗って戦う軽騎兵と呼ばれるものです。相手との距離を一定に保ちながら攻撃をするのが、主な戦い方になりますね。さらに、グアームド兵には昔から風魔法の使い手が多く、風を利用して矢をコントロールしてきます」
「なるほど、遠距離は相手の土俵ということか。じゃあ、ジュテーム軍はどういう戦い方が得意なんだ?」
「ジュテーム軍は、鎧を着込んで馬に乗って戦う重騎兵が主な戦力になります。軽騎兵ほどの機動力はありませんが、鎧で身を固めてるため防御力は高く接近戦では他を圧倒する力を持っています。ただ、遠距離では防戦一方の展開を強いられることになると思います」
つまり、ジュテーム軍が力を発揮するためには、接近戦に持ち込まなければいけないわけか。
「ジュテーム軍の得意魔法とかはないの?」
「そうですね……。炎魔法と光魔法なんですが、炎魔法は風魔法に相性が悪く、基本使えないと考えた方がいいですね。光魔法は使える人があまり多くありません。あと最近は、光魔法を封じる魔道具があるみたいで、グアームド軍が持っている可能性もありますね……」
なんか聞けば聞くほど勝算がなくなっていく気がするな……。
「そういえばさっきラーダルが、俺が光魔法に干渉を起こしたって言ってたが、あれは何かの武器にならないのかな?」
そう尋ねると、ラーダルは掌を上に向けて、何やら詠唱を始める。
「ちょっと、ラーダルさん……?何をなさってるんでしょうか?」
ラーダルはにっこり笑って答える。
「じゃあ、光魔法受けてみましょうよ。あんま痛くないやつなんで大丈夫ですよ?」
いやいや、ちょっと痛いのかよ……
「ま、待っ……」
俺が制止する前に、ラーダルの掌に現れた光球が、俺のもとへ飛んでくる!
「う、うわああああ……って、あれ痛くないし掴めるぞ?」
ラーダルが首を傾げる。
「おかしいですね、この光球はエネルギーの塊なので、身体に触れた瞬間、吹っ飛ぶ衝撃の筈なんですが……」
いや、お前の中のちょっと痛いはどうなってんだよ……、ラーダル、なんてタフな
俺は、掌で掴んだ光球をもにゅもにゅしながら、ラーダルについ投げ返す。
ラーダルがそれを掴もうとした瞬間、光球が爆発!ラーダルが吹き飛ばされる。
「ラ、ラーダル!すまん!大丈夫か!?」
ラーダルが起き上がる。
「タツヤさん、何するんですか?ちょっと痛かったですよ!!」
ちょっと痛いだけなんかい!ラーダル、なんてタフな
「もしかしたらタツヤさんは、光魔法を掴んで自分のものにできるのかもしれませんね」
ラーダルがそんなことを口にする。
「つまり、ラーダルが作った光魔法を、俺が掴んで自分のものにできるってことか?」
「あくまで推測の域を出ないですけど、その可能性は高いですね」
もしかしたら、何かに使えるかもしれないな……!
そんなことを考えていると、司令室に一人の兵士が駆け込んでくる。
「グアームド軍が国境付近まで攻め込んできました!!」
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