第4話「勝ち方のかの字」

 こうして、俺はジュテーム王国の軍を率いることになってしまった。

 今、ジュテーム王国に迫っている一番の危機が、隣国グアームドの侵攻らしい。



 俺とラーダルは、対グアームド防衛軍の拠点となっている兵舎へ馬車に乗って向かう。


「なあ、俺はこの世界に来たばっかで何も知らないんだ。この世界について教えてくれよ」


 馬車に揺られているラーダルに尋ねる。


「そうですね。あちらの世界との1番の違いは、魔

法という概念があることです。私たちは魔力を媒介に様々なエネルギーを生み出すことができます」


「魔法か……。ラーダルはどんな魔法が使えるんだ?」


「私は、光魔法がつかえます。これは、生み出したエネルギーを、炎、水、風、雷のような自然現象に変換するのではなく、そのまま使う魔法です」


「エネルギーをそのまま使う?いまいちイメージできないな」


「タツヤに使った転移魔法もその一つです。あれは、エネルギーを位置エネルギーとして使った魔法になります」


「あの銀歯の生えたおっさんになっていたのも、光魔法なのか?」


 すると、ラーダルは顔を真っ赤にして睨みつけてくる。


「あれは違います!!!異世界への転移は尋常ではない位置エネルギーを使います。それによって、負荷がかかりすぎて起こったバグです!」


「バグなのか……。あの銀歯の光で転移させたのは?」


「銀歯の光?タツヤにはそんな風に見えてたんですか?私は普通に転移魔法を使った筈なのに……。うう……もう転移できない……」


 どうやら、俺からは銀歯の光で転移させられたように見えていたが、ラーダルは普通に転移させていたらしい。そんなバグもあるのか。ラーダルが転移してくれないと元の世界に帰れないので、必死にフォローをする。


「いや、でも、あれだな。綺麗な銀歯だったよ?」


 頬っぺたを叩かれた。


「じゃあ、俺だけ謁見の間に転移させられたのもバグなのか?」


 ラーダルはまだ怒ったままで答える。


「いいえ、転移の位置がずれるなんていう致命的なバグは起こり得ません。おそらく、タツヤが光魔法になんらかの干渉を起こしたのかと。タツヤのせいですよ」


 なぜか怒られてしまった。


***


 ジュテーム王国とグアームド国の国境に作られた防衛軍の兵舎。そこでは、ジュテーム王国の兵士たちの緊迫した空気が広がっていた。


 ラーダルが兵士たちを集め、新しい指揮官になる

俺を紹介する。


「こちらのタツヤは、異世界からやって来た我が国の救世主です!彼なら、グアームド国の侵攻を止めてくれるはずです!」


 歓迎の拍手はない。最前にいた強面の兵士が声を上げる。


「何が救世主だよ!見るからに、戦争のせの字も知らねえガキじゃねえか。確かに、今はどこの国でも異世界人が指揮官をやってやがる。だがな、俺はこの国の王を慕ってないやつの下に就きたくはねえ!俺たちは国王のために、ここで身体張って戦ってんだ!」


 彼らにとって大事なのは王様を守ること。それを理解した俺は、野球の監督を思い出す。


 監督は、選手の責任を全て背負うことになる。チームが勝てば、戦った選手たちが褒められる。しかし、チームが負けたとき、矢面に立つのは監督である。

 そんな重荷を背負ってチームをまとめてくれているのだ。だからこそ、選手は監督のために戦うのだ。


 国王もそうなのだ。もし、ここで彼らが失態を犯してしまったら、それは国王の顔に泥を塗ることになる。

 ここまで慕われているのだ、ルワンダ王は民を第一に考える良き王様なのだろう。そんな王様だからこそ、彼らは前線で戦っているのだ。


「確かに俺はこの世界に来たばかりだ。ルワンダ王のことも、戦争のせの字も知らない。だが、ルワンダ王がここまでお前らに慕われていることは、分かった」


 兵士たちの前で声を張る。


「そして、俺は勝ち方のかの字を知っている!!」


「戦争なんか知らなくても勝てばいいんだ!負けたら叩かれるのは、国王なんだぞ!俺が率いたら、お前らを絶対に勝たせてやれる!国王の顔に泥を塗りたくないのなら、俺についてこい!!!」


 兵舎の中は、喧騒に包まれる。先ほどの強面の兵士が声を上げる。


「そこまで言うんだ、負けたらただじゃおかねえからな!!」


 俺も声を上げて、それに答える。


「負けないから安心しろ!勝って、国王を胴上げしてやろうぜ!!」


 俺がそう言い切ると、兵士たちに国王を胴上げなんかしたらお前を殺すだの、不敬にも程があるだのと怒られ、頭を叩かれた。

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