第3話「ジュテーム王国」

 銀歯のおっさんの正体という、衝撃の事実が明らかになったものの、状況はなんとなく理解することができた。


 俺が飛ばされたのはジュテームという王国らしい。


 この国は、周辺8カ国に面している長野県のような国で、国力もあまりないそうだ。しかし、中央に位置するため、周辺国は互いに牽制し合い、攻められることはなかったんだとか。


 だが、その均衡状態は突如として崩れる。


 周辺国の一つ、グアームドが侵略行為を開始する。

 グアームドは転移魔法により、別世界、つまり、俺がいた世界から30人ほど人間を連れてきたらしい。だが、そのうち29人はこの世界にきてすぐに、食中毒やら落ちてきた木材に当たったやらの不慮の事故で亡くなってしまったそうだ。


 しかし、残った一人がとんでもない存在だったらしい。


 その男は、転移直後は全く期待されていなかった。別世界で武功を挙げている他の29人とは違い、彼は戦犯として扱われていたからだ。

 しかし、その29人が亡くなったあと、仕方なくグアームドは、軍の指揮をその男に任せた。

 すると、彼の指揮する軍は、どんな劣勢でも跳ね除けていった。突然の暴風が味方になったりしたそうだ。


 ラーダルが言うところには、


「その男は、別世界ではモンゴル帝国という国にいたらしいのです。ジパングという国を属国にするため、大軍を率いて攻め込んだそうですが、予期せぬ暴風雨に巻き込まれ、侵攻は失敗。勝てるはずだった戦を落としてしまいます。軍を率いたその男は、祖国の帝国からは戦犯として扱われていました。そんなときに、グアームドからの使者がこの世界に転移させたらしいのです」


 それを聞いた俺は、元寇を思い浮かべる。

 確かにあれを率いたモンゴル側の指揮官もとんでもない負け運の持ち主だ。日本側が、石塁設置といった対策は講じていたものの、2回目の侵攻にあたる弘安の役では、10万以上の軍を率いて負けてしまったのだ。俺に匹敵する勝ち運のなさかもしれない。


「そんなグアームドのやり方を目の当たりにし、周辺国も、こぞって別世界の人間を転移させました。しかし、活躍する人間に限って、元いた世界では勝ちに恵まれていなかったのです。そこで、各国はある推測を打ち立てます。『別世界で勝ち運のない者が、この世界では勝ちに恵まれる』と」


 ラーダルの話で、なぜ俺が救世主になるのかは理

 解できた。だけど、一つ疑問が浮かぶ。


「今のラーダルの話を聞いてて思ったんだが。時代も関係なく転移できるなら、グアームドみたいに戦争の指揮官を連れて来ればいいだろ! なんであんな平和な時代の、それもボールしか握ってこなかった俺を選んだんだよ!?」


 ラーダルは、ドヤ顔で返す。


「タツヤが一番勝ち運を持っていないと思ったからです! きっと、タツヤがモンゴル帝国の軍を率いていたら、一隻いっせき残らず、ジパングに着く前に沈没してましたよ! だから、自分を信じてください!!」


 ラーダルが俺の手をぎゅっと握る。なんだか凄く馬鹿にされてる気がする。この娘は新手のドSなのか?


「それにまだ俺は、こんな危険なことに付き合うとは言ってないぞ!野球選手に怪我はご法度だ!」


 ラーダルは小悪魔のような微笑みを浮かべた。


「こちらの世界で勝ちを重ねれば、向こうでの負け運もなくなっていくんじゃないですか?」


 確かにラーダルの話が本当ならば、俺の世界で勝ち運のないやつは、この世界で勝つために十字架を背負わされているのかもしれない。

 だとしたら、この異世界で勝つ必要がなくなれば、自ずと元いた世界での勝ち運も人並みにはなるのではないか?


 頭の中で、怪我のリスクと、人並みの勝ち運が手に入る可能性とを乗せた天秤が揺れ動く。


 そこで、思い出したかのようにラーダルが付け加える。


「あと、タツヤが軍を率いてくれないなら現実世界には返してあげませんよ?」



 天秤は呆気なく壊れた。

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