第2話「ダンゴムシ以下の勝ち運」


 そこは、中世のお城のような建物の中だった。


「こやつが、我が国を救ってくれる救世主なのか?確かに身体つきは良さそうだが。なんというか幸の薄そうな顔つきだぞ……」


「ラーダルが連れてきた男です、きっと何か特別な力を持っているのかもしれません」


 目の前では、立派な髭をたくわえた徳が高そうなおじさんと、目つきが鋭く、長い黒髪を後ろにまとめた美人の女性が、何かを話している。


「あの!すみません!変なおっさんの銀歯の光に包まれて……!気づいたら、ここにいたんですけど!」


 俺の言葉に、二人の頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。そして、俺の頭上にも浮かんでいた。俺は何を言ってるんだ……?


 そこに、銀髪のボブヘアーをした女の子が走ってやってくる。


「はあはあ……。どこに転移したのかと思ったら、まさか謁見の間に飛ばされてるとは……!」


「ラーダル!どこにいたのですか!色々と説明してください!」


 ラーダルと呼ばれた銀髪の女の子が、目つきの鋭い美人に何か説明を求められていた。俺も説明が欲しい。


「レーミア様、申し訳ありません!この男が、我が国ジュテームの危機から救ってくれる救世主に違いありません!」


 いや、違いありませんって……。間違いしかないよ。


「そうか。ラーダルよ、お主には、異世界に転移してこの国を救ってくれる救世主を探しに行くよう命じておった。お主はこの男に何を見出したのだ?」


「はい、ルワンダ王。この男、シキシマ タツヤは、元いた世界では全く勝てていなかったのです!」


 二人の間に、激震が走っていた。そりゃそうだ、全く勝てない男を救世主で連れてきたなんて、無能にも程がある。


「なんと……!しかし、努力を怠ったとか何か負けてしかるべき理由があるのではないのか……?」


「いいえ、タツヤは努力を惜しみませんでした。そして、才能もありました。それなのに、大事なところで神様のいたずらとばかりに、勝ちを逃してきたのです!」


 ルワンダ王と呼ばれたおじさんとレーミアと呼ばれた女性が、俺に憐れみの目を向ける。


「そうか……!ラーダル、お主は半年間、異世界を観察してきたそうだな。その中でこの男、タツヤが、最も勝ちに恵まれていなかったのか?」


 いや、俺よりも勝ちに恵まれていない奴ぐらいいるだろ……!


「はい、タツヤが一番でした。彼より勝ちに恵まれない人、いや人どころか生き物は、一匹たりとも見つかりませんでした!!」


 えー……。俺って全生物の中で一番勝ちに恵まれてなかったのかよ……!


「いや、いっぱいいるだろ!?ダンゴムシとかさ。あいつら多分、生を受けてから一度も勝ったことないだろ??」


 ラーダルは悲しそうに首を振る。



「ダンゴムシの方が勝っています」



 嘘だろ……?だってあいつら、ちょっとつつくと団子みたいに丸くなるじゃん。そこから勝てるビジョンが見えないんだが。


「勝ち運というのは、その人の能力や努力と相対して考えるべきものです。ダンゴムシの能力と努力、あなたの能力と努力を相対して考えてみると、ダンゴムシの方が勝ち運を持っています」


 つまり、俺は能力や努力に見合った勝ち星がダンゴムシより少ないということか……。


「ですが、タツヤ。あなたのダンゴムシにも劣る勝ち運のなさが、この世界を救う力になるのです!」


 ラーダルが、キリッとした顔で言う。俺は、ダンゴムシにも劣ると言われたことで胃がキリッと痛んだ。


 ラーダルが続ける。


「先ほど、私はタツヤに伝えたはずです。あなたの勝ち運のなさは別世界で勝つためのもの。この世界では、あなたは勝ちに恵まれる、と」


 俺は一瞬、思考が止まる。


「いや、銀歯の生えたおっさんには言われたけど、あんたからは言われてないぞ」


 そう返すと、ラーダルの顔が真っ赤になり、震えた声でこう言った。





「あ、あれが……私です……」

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