第2話 溜まってるならごにょごにょ

「相当、あらぬものが溜まってるのね……」

と、あやめが嘆息したかと思えば、

「しょうがないわ。部長としてトイレに行く事を許可します!」

などとのたまった。


「な、ななな!? 何言ってるんだよ! 何のことを言ってるのかわからないよっ」


 悲痛になる僕を前に、やれやれといった風にあやめは読んでいた本を閉じる。

そして真剣な表情で僕に向き直った。


「わかってないわね。悶々として、余計な考えが頭で錯乱するなら、デトックスしちゃえばいいじゃない。そっちのほうが合理的だわ」

 

あやめは、僕に言い切ると読みかけの本を開いた。

あやめが今、熱心に書淫しているのは、広辞苑である。


『どんなけ、本が好きやねんっ!』と、大阪人じゃないのに大阪弁を使うというご法度を冒しつつも、心でツッコミを入れてしまう。

 僕はもう、ごちゃごちゃ考えるのを放棄して、続きの本を読む。

僕が今読んでいるのは、『妹の部屋に地雷アリ』という妹とネコ耳萌えの話だ。


 空は陰り、夕日が図書室の中を赤く包む。

僕はおもむろに立ち上がり、ブラインドを降ろした。


「ねえ、キスって知ってる?」


 夕日の茜色に、あやめの唇は更に朱色に染まっていた。

僕はごくりと思わず喉を鳴らした。

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