第49話「覚醒」


 あ、正義と悪がぶつかり合う極限の場面ですが、ここでちょっと一時停止しますね!

 

 黒須くんが生み出す瘴気に呑まれたエレシュキンは、別の空間にいました。


「……ここ、は?」 


 気が付くと、音も光も閉ざされた深き闇の世界。

 全てがあやふやで、もとが幻影で存在の希薄なエレシュキンは、さらに『ゆるふわ感あっぷ』になっていました。


「こころ、の、せかい?」


 彼女の直感を証明するように、目の前に膝を抱えた少年が現われます。

 顔を伏せており、表情は分かりません。


「ゆうしゃ、さま?」


 ゆっくりと手を伸ばすエレシュキン。

 次の瞬間、黒須くんの腕が弾けるように伸び彼女の手を掴みました。


(! 引きずり、こもうとしている? なにを、どうやって。このからだは、うつし身でしかない――意しきを、がいねんを、取り込む?)


 抵抗する術もなく、黒須くんの中に吸収されていくエレシュキン。

 彼女の意識が途絶とだえる寸前に見た勇者さまの顔は、色の無い瞳と幽鬼のような表情。虚無に似た、深い闇に包まれていました。


 と、いうわけで再び現実世界にゴーズオン!



「消ぃぃぃぃいいえぇぃ去るがいいぃぃぃぃぁぁあああああ悪魔ぁああアアアアァアアァアアアア!!!!」


 ハルヴァトの振るった大剣から膨大な量のエネルギーが噴出し、黒須くんとエレシュキンを包む瘴気のブラックホールに激突します。


 光と闇が生み出す衝撃に、トリーは駆け寄ることもできずに足を止めていました。

 巨大な光に比べ黒須くんが生み出した深い闇はあまりに小さく、すぐにでも消滅してしまうかに思われます。

 しかし、そんな予想とは裏腹に聖なる光は闇の瘴気に押しとどめられていました。


「光が、弱まってる!?」


 司祭の生み出した光はブラックホールに吸い寄せられるように瘴気の周りで強烈な渦を巻き、まるで惑星のように姿を変えていきます。

 それに伴って徐々に瘴気は大きく成長し、光を押しとどめるどころか押し返していました。


「ァァァァァァァアアァァァアァア…………アァ?」

「な、なんだ、何が起きてやがる! クロノスが、してる……?」


 本来なら先程と同じように光に襲われ消し飛ばされるはずだった黒須くんは、今、あきらかに光に対抗し、それどころか圧倒しようとしていました。

 光の威力が弱まるごとに瘴気は大きく成長し、圧倒的だったその力の差は逆転。

 誰の目から見ても、趨勢すうせいは明らかになっていました。


「ぬぅぅぅぅうんんんんんんんんん!?」


 星が生まれるかのように肥大していく闇の瘴気。

 迫りくる黒色に対して、司祭は脈動する大剣を盾にして防御します。

 それでも勢いは殺しきれず、大剣の腹を大きく削られながら後方へ押されていきました。

 踏ん張った司祭の両足が地面に長いわだちを作ってようやく瘴気は収まり、集束を始めます。


 小さく凝縮された闇の奔流が、時間をかけて形を作り上げます。


 異形と呼ぶのもはばかれる、一体の怪異の形を。


 最初に見えたのは頭部。そこを飾るのは、小さな剣がかたどる不格好な王冠。装飾も何もなく、頭に突き刺した拷問具のようにも見えました。

 その下には頬付き兜。要所が攻撃的に尖った悪魔的意匠で、目が覗くはずのスリットは瘴気に覆われその奥をうかがうことができません。


 突如として巻き散らされる竜巻が、その中央に立つ漆黒の全貌を露わにしました。


 まあ、何ということでしょう!

 本邦初公開、ついについに、我らが主人公の覚醒です!


 朴訥で純粋無垢な少年の姿はそこにはなく、闇を纏った戦士ばけものがいるではありませんか。学生服は流動的な鎧に姿を変え、一切の隙を感じさせません。


 全身から溢れ続けている瘴気は不気味なほどに重い黒色に変わっており、質量すら感じさせるほど。


 鎧の随所に武器の一部が飛び出しており、確認できるだけでも剣、槍、斧短剣、矢、棘、槌、鎌、歯車、盾、鋸、爪と狂気的な凶器たちのバーゲンセール状態。


 数多の武器の欠片が織りなす造形は、悪意だけで構成されたまさに呪具です。

 機能美など何処にもなく、ただ殺す。切って殴ってなぶって殺す。刺して晒して垂らして殺す。おおよそ普段の黒須くんからは想像も出来ない殺意の顕現けんげん


 竜巻が収まると、その殺意を隠すように瘴気に侵され薄汚れた白い布が体の各所に覆い被さりました。黒死の鎧が、かつては美しい色をしていたであろう聖布を纏って立つ姿。


 うーん、カッコいいです。おかわり何杯でもイケちゃいます。


 そんな超・変・身を遂げた黒須くん・真を見て彼の仲間が思うのは感動でも称賛でもなく、困惑でした。


「な、なんだよあれ、クロノス、なのか……?」


「――――――キキキ゛キキウウ゛ウ゛u゛u゛u゛u゛゛u゛゛a゛A゛a゛a゛A゛a゛A゛A゛A゛A゛A゛!!!」


 その咆哮は、耳にしたもの全てに本能的な恐怖を植え付けます。

 金属音と断末魔が混じった不快な雄叫び。 

 生きとし生けるもの全てを呪うような、絶望的な声でした。


「な、なにをしたかは知りませんが、かまいません! 姿形が変わったところで所詮は見掛け倒し、神の前には等しく無力! 私の全力を――ッ?」


 司祭が口上を言い切る前に、音すら置き去りにして肉薄する真・黒須くん。

 認識を飛び越える速度を出しているにも関わらず、黒須くんの姿勢は棒立ち。彼はそのまま無造作に拳を振り上げました。 

 そこに速度も力もあるようには見えません。


「アィイッ!?」


 それでも、底知れぬ恐怖を感じた司祭は咄嗟に防御をしようとします。

 その判断は正解でしょう。拳が剣の腹を打ち据え、衝撃を後方に散らしました。

 一瞬は耐える司祭ですが、瘴気が威力と勢いを増幅させ、


 黒須くんが拳を振り抜くと、司祭は猛烈な勢いで空中を飛んでいきました。


「なぁぁあッ!?」


 空を飛ぶ司祭に追随して、黒須くんは空を駆けます。


 空中に展開した瘴気を足場に二段ジャンプを続ける黒須くん。

 続いて行われるのは、鬼畜の所業。


「A゛A゛A゛A゛A゛a゛a゛a゛A゛A゛A゛a゛A゛A゛A゛a゛a゛!゛!゛」


 空中ですべのないハルヴァトに、黒須くんが容赦なく追撃を食らわしています。


 殴って蹴って掴んで投げて締めて切って極めて打って折って捻じって刺して貫ぬいて裂いて引っ掻いて斬って突いて、ころす。


 暴虐を体現した力の嵐。暴力の連鎖。精練された技術はなく、完成された美しさなど欠片もない、圧倒的に純粋な殺意。

 覚醒した黒須くんは、瘴気を纏い、ただ己の障害を排除しようと暴れます。


 ひとしきりハゲを弄んだ黒須くんが一瞬動きを止めて、高空で司祭の首を鷲掴みにしました。


「は、……な、せ」

「KrKrKrKrKrrrr……!」


 ここで初めて、司祭は暴走した黒須くんを間近で目にしました。

 兜の隙間から覗くのは底知れぬ闇の中に浮かぶ、どす黒く赤い双眸。

 視線を交わしているのに、司祭には何も感じ取ることが出来ません。

 ただ一つ、脊髄を貫くような冷えた感情を除いて。


「Q゛Q゛u゛u゛uU゛AA゛AAA゛AA゛!゛!゛!゛」

「ッ!」


 一瞬の溜めの後、黒須くんは司祭を地面に向かって射出しました。

 無造作に見える動きでしたが、その勢いは音速に近いもの。

 投げる瞬間は見えても、その影を追うことは出来ませんでした。


 空高くから超速度で地面に叩きつけられる司祭。

 彼が激突したのは、黒須くんが初めに作ったクレーターです。

 その時に振り下ろした拳が可愛く見える程の威力で、地面がさらにえぐれました。

 ミズヴァルの街の全土に伝わったと思う程の振動が、トリーや他の呆然とする信者達をも巻き込みます。

 

「ぬおっ!」


 高台全てが崩壊するのではという衝撃に、トリーがひっくり返ります。

 信者達も各々倒れたり吹っ飛んだりしていました。


「――――kkkkkuuuu――U゛U゛U゛U゛U゛U゛A゛A゛A゛A゛A゛A゛a゛a ゛A゛!゛!゛!゛」


 重力を感じさせない所作で着地し、天に向かって雄叫びを上げる黒須くん。

 その叫びだけで、ゾンビ耐性のない一般人は気絶してしまうでしょう。

 同じ存在であるはずのトリーでさえ、気を強く保っていないと自我を持っていかれそうでした。


「ま、まちがいねえ……圧倒、してやがる」


「……ん、んんぅ。……ん!? はっ! しまった! アタイとしたことが! おいトリー、だいじょうぶか!?」

「クッ……また、気絶していたのか」

 

 黒須くんが生み出した衝撃と咆哮で、意識を失っていたクラリスとレイナが目を覚ましました。

 クラリスが声を掛けてもトリーは気付かずに茫然としています。


「――――kkkkkuuuu――U゛U゛U゛U゛U゛U゛A゛A゛A゛A゛A゛A゛a゛a ゛A゛!゛!゛!゛」


「ひっ!? 何だ!? 何だなんだ!?」

「あれは……!?」


 彼の視線の先にいた化け物を見て、二人も驚愕を顔に浮かべました。

 地面から逆巻く闇を生み出しながら、ただ吠える異形。

 どう見ても得体の知れない敵に、レイナも咄嗟に炎の槍を構えます。

 

「トリー。あれは、……クロノス……なの、か?」

「気ぃついたのか」


 二人に目もくれることなく、トリーは黒須くんを見つめていました。

 ただ破壊を生み出す圧倒的な力。それは絶望的な状況を覆す、救いの筈でした。


「分からねえよ。多分クロノスだ。クロノス。なんだけど。……もう、無茶苦茶だ」


 震える瞳で黒須くんを見つめるトリー。

 レイナとクラリスも、息を呑んでその覚醒し変わり果てた姿に圧倒されています。

 

 歪な叫び声以外の音が無くなった、奇妙な静寂が暫く続きました。


 その静けさを破ったのは、小さな石が転がるような音。

 その発信源、深いクレーターの中から瓦礫が押し上げられます。


 穴の淵から這い出してきたのは、白い腕。ついで光る禿頭。

 救世主が無事と分かって、まだ正気を保っていた信者が湧き立ちます。しかしその喝采は、彼の姿が露わになるほど尻すぼみになっていきました。


 大剣から断続的な光を発し、身体に纏わりつく瘴気と砂煙を吹き飛ばす、ボロボロの司祭。

 先程までの堂々とした立ち振る舞いはつゆと知れず、全身はあらゆる損傷に埋め尽くされていました。


 左腕は根元から無くなっており、血液の代わりに赤と白の稲光が傷口から漏れ出ています。

 彼もまた、まっとうな人間ではなくなっているのでしょう。右手の大剣を杖替わりにして、それでもハルヴァトは何とか立ち上がっていました。


「き、きさ、ま、何だ、これは、……なにを、何をしたのだ、貴様!」

「――――KrKrKrkr?krkrKrkrkr?」


 うなり声を出す黒須くんと、コミュニケーションをとることは不可能です。ハルヴァトの怒号にも反応せず、予想の出来ない動きで、キョロキョロと明後日の方向を向いていました。

 明らかに正気がないと分かる狂った挙動。

 本当に、黒須くんなのか。仲間である三人がそう思ってしまう程、彼は見た目も中身も、様変わりしていたのです。


「お、おのれおのれおのれ! おのれおのれオノレおのれおのれおのれぇぇ! 調子に乗るなよ小僧!」


 圧倒的優位にいたはずなのに唐突に大逆転されて、司祭は精神的にも追い詰められています。

 それなのに瞳は爛々と輝き、いまだ闘志は失っていない様子。

 身を持って圧倒的な力量差を味わいながらも、剣を手放さないのは信仰のなせる業か、それとも、聖遺物による麻薬にも似た呪いのためなのか。


 もはや両者とも、大事な何かを見失っているようでした。


「――――――KrKrkirQiiiiaa゛a゛a゛A゛A゛A゛!゛!゛」

「ふ、ふふふ……そうか、そういうことか! ついに、ついに本性を現したのだな悪魔よ! 良いぞ、とても良い、これこそが試練。さあ、かかって来るがいい化け物! 貴様がどれほど意地汚く悪辣であろうとも、我が信仰の前には――ッ!?」


 また言い終わる前に司祭は口をつぐみました。

 今の黒須くんを前にして、無駄なおしゃべりに興じていられる余裕などあるはずもありません。


 司祭が咄嗟に構えた大剣と鍔ぜりあうのは、黒須くんの手の平から生えた漆黒の長剣。

 飾り気も何もない無骨な刀身ですが、込められた力は計り知れないようです。

 どれほど司祭が力を込めても押し返すことは出来ず、逆に押された司祭はたまらず膝をつきました。禍々しい黒い鎧が、聖なる戦士を跪かせるその光景。


 実に、堪らないものがありますねぇ、悪が正義を打ちのめす様というのは。


「くぅッ! なん、この、力はッ!?」

「qqQqQqiqaaiaA゛A゛A゛A゛!゛」


 黒須くんの空いた左手に今度は重々しい意匠の斧が生まれました。

 横薙ぎの死が、司祭の首を狙います。


「ぬおおおおっ!?」


 屈んだ体勢から無理矢理に大剣を跳ね上げて、司祭が何とか斧を弾き返しました。

 片手のみでその離れ業を行う技量を褒めるべきでしょうか。

 

 体が揺らいだ司祭に向かって、黒須くんが肉迫します。

 両腕の武器に加えて、今の彼の全身には無数の武器が出現しています。

 膝のニードル、つま先の鋭い刃、腕に沿うように肘から伸びる太刀、踵から空を突く小さな鎌。全身武器庫と化した黒須くんの猛攻が、哀れな獲物をいたぶります。

 それはもはや戦いではなく、一方的な蹂躙。


「ああああアアあアアアアアああああああああ!!」

「――――kkkkkuuuuU゛U゛U゛U゛U゛U゛A゛A゛A゛A゛A゛A゛a゛a ゛A゛!゛!゛!゛」


 それでも負けじと剣を振るい、ありとあらゆる武器の猛攻を首の皮一枚でしのいでいく司祭の抵抗は凄まじいものです。


 生にしがみつくその様はとても人間らしい見苦しさ、

 命を懸けた攻防というものは、どこか美しさを感じさせ、

 黒と白の化け物が互いに、持てる全てを迸らせながら命を削り合う。


 だが戦いとはかくも残酷なもので、勝つのは強者のみでありました。


「ごぶぁッ!」

 

 鋭く突き刺さった黒須くんの足刀が文字通り司祭の腹を貫き吹き飛ばしました。

 白い粒子を噴き出しながら、大剣と共に地面を転がります。


 ボロボロになりながらも、司祭は大剣にすがり続けました。

 しかしそれを嘲笑うように、狂戦士が瘴気を巻き散らしながらハルヴァトを追い詰めます。

 いつの間にか鎧から出現した凶器群は収まっており、彼の右手には一本の武器が携えてありました。


 巨大な鎌が二つ逆向きについたような異様な得物。磨かれた刃は濡れた輝きを放ち、触れるだけで指が落とされそうです。長い柄には赤いヒビがそこかしこに入っており、不気味に脈動していました。

 死神が持つに相応(ふさわ)しい歪なそれを引きずりながら、黒須くんはゆっくりと司祭に近付きました。


 その歩みは罪人の首を撥ねようとする死刑執行人のよう。

 断罪される側だと気づいた司祭の顔が憤怒に歪みます。


「ォォォおのれェ! 神に仇なす悪魔如きがぁ!」


 怒号と共に、光の波が飛び出しました。威力でいえば黒須くんを瀕死に追いやった一撃と同程度。トリーやレイナでは抵抗すら出来ない威力です。


「――Qrr?r?」


 しかし、それすら黒須くんには届かない。

 煩わしそうに真上に振り上げた双刃鎌が、光の津波を真っ二つに切り裂きます。

 竹を割るように心地良い音と共に、波濤が左右に分かれて消え去りました。


 残虐な悪魔の行動はそこで終わりません。鎌を持っていない右手を天にかざします。

 まだ敵に抵抗の意思があると判断した黒須くん。拷問具のような王冠から無数の剣を生み、宙に浮かんで司祭の身体を隙間なく覆い尽くしました。


 ドーム状に司祭を囲むボロボロの刃。その先の惨劇が、容易く予想出来るものでしょう。

 この容赦のなさこそが、黒須くろず玄舞げんまいというゾンビの真髄。


 純粋な心というものは極端に振り切れやすく、また清廉な想いほど、強い力を生み出すのです。


「こ、この、こん、こんな、はず、」


 流石の司祭も恐怖を感じたのか、剣を構えることすらしません。

 神の使徒も強大な力の前ではこうも無力。なんと惚れ惚れする黒須くんゾンビの力でしょうか。


 彼が右腕を指揮者のように下ろすと、全ての剣が一斉に司祭に降り注ぎました。

 剣の雨が彼を消し、悲鳴すらも覆い隠します。

 無慈悲に司祭を切り刻むのは、冷酷無比な剣戟の乱舞。

 やがて砂埃と瘴気が舞い上がり、司祭と黒須くんの影を隠してしまいます。


 痛いほどの静寂が、大聖堂を包みました。


「……か、ふっ、お、のれ、ぇ」

「――――Q゛q゛」


 覆いが晴れ、勝者と敗者の姿を浮き彫りにします。

 黒須くんに首根っこを掴まれ、力なくぶら下がる司祭。 


 ついに勇者がラスボスを倒しました!

 喝采が上がることはなく、仲間である三人でさえ、彼を称賛することはありませんけど!


 ぶら下がるボスは、もはや戦う力など皆無のようです。

 憎々し気に黒須くんを睨む眼だけが、力を保っていました。


 もはや敗残兵のようにボロボロの司祭。黒須くんは首を掴む手を離すと同時に、彼は司祭を思い切り蹴り上げました。


「ごっ!」


 軸足が接している地面が放射状にひび割れる程の力を込めた、容赦のない一撃。

 司祭はくの字に折れ曲がり、抵抗なく空へと飛んでいきます。


 そして黒須くんも跳躍し、空中で追い付きます。抵抗など出来ない彼を、黒須くんは瘴気を込めた拳でただぶん殴りました。

 ミズヴァルを見下ろす高台から撃ち落とすように吹き飛んだ司祭は、大聖堂のある岩壁を破壊し、木をなぎ倒し、遠く遠く、地面をえぐりながら沢山の家屋を倒壊させ草花を巻き上げ、


 やがて勢いをなくし、もみくちゃのまま地面に横たわります。


 そこは切り立った崖の上でした。

 孤児院の裏のお花畑、エッダの宝物の場所、

 『街で一番綺麗なところ』。


「……………」


 あれほどの暴虐にあって幸いにも、いやいや、不幸にもまだ息のある司祭の近くに、瘴気を噴き出しながらた黒須くんが降り立ちます。


「――――QqqKkkkkr?krk?」


 双刃鎌を上段に構え、司祭の首を切り落として殺そうとする黒須くん。

 トリー、レイナ、クラリス。大聖堂から遠く離れた仲間が場所に追いつける筈もなく、その処刑は花畑に囲まれて、静かに執り行われようとしています。

 

 まさに刃が振り下ろされようとする、その時でした。



「く、クロノス! ……な、のか?」



 ファンの皆さまがおられましたら、大変長らくお待たせしました。

 すっかり存在を忘れていた新米冒険者ゾンビ・エルフこと、相棒ハーディの登場でございます

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