第26話 「後の祭り」

「まさか、クラリスが本物の貴族の娘だったんなんて……結局なにが嘘なのか、わかんないや」


 少し経って、ゴッゾを噛み噛みして完全に正気に戻ったクラリスの、

「化け物になった祝いだ!」

という意味不明な発言から、黒須くん一行とトラソル一味は大きな焚き火を囲んで宴会を開いていました。


「ええ、十年ほど前に屋敷は無くなってしまいましたが……首領は歴とした貴族の生まれであり、私はコアトリクス家に代々お仕えする召使の一族、名をゴッゾ・シクアトルと申します。一味の他の者たちは、血の繋がりはありませんが、皆、首領の出生に関しては理解しております」


「しっかし、なんでまた貴族の娘が盗賊の頭なんかに?」


 手にしたジョッキに注がれた酒を飲み干しながら、トリーが疑問を口にします。


「それには深い事情がございまして……」


「かーっかっかっか! そんなことどうだっていいだろうが! アタシはこいつらの親分で! こいつらはアタシの兄弟よ!」


難しい顔をしたゴッゾの言葉を、クラリスの声が吹き飛ばしました。


「「「「「おうよ! 我らが大親分!」」」」」


「ギャオーーーン!」


「アタシのことは、首領ドンって呼びなあ!」


「いってえ!」


クラリスが、兄弟と呼んだ盗賊の一人の頭を拳銃で撃ち抜きます。しかし。撃たれた盗賊は全然元気。なぜなら、彼もゾンビなのですから。



 ゴッゾがクラリスに食べられた、その後。

 逃げるように命じられた盗賊たちは、その半数ほどが残っていました。自分たちも、首領から離れるわけにはいかないと、ゾンビにして下さいと志願したのです。



「いいんだな? クロたちの話じゃ、人間に戻れる保証はないんだぜ?」


「なにも、貴方たちまで……」


「水くせえこと言わないでくだせえよ!」


「オレたちゃ寝ても覚めても、死んでようが化け物だろうが! トラソル一味! 首領の行くとこ、着いて行くためには地獄にだってお供しやすぜ!」


「まあ、首領が戻ってくるまでに縄張りを守れるよう、ちょいと待っててもらう仲間もいやすが、どこに居たって、一味の心はひとつ! なあ、みんなぁ!」


「「「「「おうよー!!!」」」」


「て、てめえら! くっそ、この、クソ兄弟ども!」


「さあ首領! いっちょ、がぶっと噛んじゃってくだせえ!」


「そういうことでしたら、私も一肌脱ぎましょう」


「あ、ゴッゾさんに噛まれるのは勘弁ですぜ。オイラは可愛い首領の可憐なお口に噛まれたいです」

「俺も」「わっちも」「おいどんも」「それがしも」


 ゴッゾさん、静かに服を着ます。


「ええい! 全員まとめて、アタシ可愛がってやんよ!」



――こんな感じで。


 そんなわけで、ゾンビパーティーは≪トラソル盗賊団≫の面々によって、あっという間に30人もの規模になったのでした。


「……こんなに増えて大丈夫なのかしら?」


「うーん、どうなんだろうか……」


 騒ぐ盗賊団たちを白い目で見つめるデューカと、難しい顔で思案するハーディ。道中で少し仲良くなったのか、洞窟内より距離が近くなっています。


「でも、沢山居たほうが楽しいよね! ゴンちゃんもそう思うでしょ!」


「アオーン!」


 黒須くんは、何故かゴンちゃんと仲良くなっており、通じているのかよく分からない会話をしています。

クラリスが近くにいるためか、ゴンちゃんも大人しく宴会を楽しんでいるようです。

 

「まあ今は、こいつらの流儀にしたがって宴を楽しめばええわい! ほれ紅蓮、いっちょ裸踊りでもしてみい!」


 強いお酒を何本も飲み干したボーゼが、赤い顔で紅蓮にセクハラをしました。


「炭になりたいか、酔っ払い?」


「そういえば、クラリス、自分の事を『俺様』って呼ばなくなってるね」


「あれは……前代の首領の自称を真似していまして……箔をつけるため、などと申されておりましたが、少し無理をしていたのでしょう。どうか、そっとしておいて下さいませ」


 実際に何発か炎を飛ばしているレイナと必死に避けるボーゼを横目に、ゴッゾがしみじみとしながら宴を眺めていました。


「かーっかっかっか! 化け物だろうがトラソル一味! アタシらが味方になりゃあ一人百人力で、えーと、三百万力よお! きっと、なんとかなるぜ! クロ!」


「「「よっ! 我らが大親分!」」」

「計算適当すぎだけどいいぞー、クラリスの嬢ちゃん!」


「アタシのことは首領ドンって呼びなあ!」


「ギャオーーーーーン!」


 いつまでも終わらない、ゾンビたちのバカ騒ぎ。愉快な盗賊たちが仲間に加わり、黒須くんの冒険はもっと賑やかになります。これからどうなるのか、それは神にしか分かりません。

 しかし黒須くん達ならば、きっと愉快で痛快で、楽しみな未来を切り開けることでしょう。


 『ニヴルのダンジョン』の中で色々あり、地上へ出て更に色々あった彼等ですが、なんやかんやっても目的地は変わりません。向かうのはこの先にある『ミズヴァル』という街。変わったのは人数だけ。


 大人数になったゾンビが、人の住む街に向かうというだけです。

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