第17話 「盗賊達の秘策」

 はい、こちら男臭い方の現場視点です。

 ボーゼとトリーの方はと言うと、ただただ急いでおりました。


 目的地を目指しているのではなく、目的地を目指せない、紅蓮の騎士レイナと黒須くんを追って。


「ううむ、儂としたことが。紅蓮が道を知らんことを忘れておったわ! うかつじゃったわい」


「まったくだぜ、ジイさん。今頃、紅蓮とクロノスがどこまで進んでるか……」


「し、しかし、あやつらもはっきりと返事しとったじゃないか」


「クロノスは紅蓮に着いて行くつもりだったんだろうけど、紅蓮の方は、なんで当然のように行っちまったんだろうな……とにかく、さっさとあいつらの行った方に進んで合流するしかねえ!」

 

 そうです。ある程度進んだところで、レイナが方向音痴だったことを思い出した二人は、もと来た道を引き返しているところなのでした。ゾンビになって身体能力が遥かに強化されている為、常人では出せない速度で進んだ行程を、同じ速度で戻っている最中です。


 ちなみに、追って来た盗賊団については、ボーゼが壁を殴り壊して脅したり、トリーが木を切り倒したりして適当にあしらって相手にしていません。


「そうじゃな、幸い盗賊共の姿は……おっと」


 噂をすれば何とやら。目の前では三人の盗賊と思しき人影がたむろしていました。


「どうするよ。迂回するか?」


「いや、奴らはまだこちらに気付いておらんようじゃ。……もしや、紅蓮たちの行方を知っとるかもしれん。ちょいと探るとしようかの」


 こっそり盗賊たちのそばの岩まで近づいた二人は、耳を澄ませます。


「おい、お頭の作戦は分かってるな?」 


「当り前よ! 流石はお頭、完璧な作戦だ」


 どうやら正攻法ではボーゼ達を捕らえられないと判断した盗賊団のリーダーが、何か悪だくみを考え付いたようで。実に嫌らしい顔で盗賊はにやついていました。


「ひひひ、これであいつらのお宝は、俺ら『トラソル一味』のもんだぜ!」


「散々暴れて手を焼かせやがって、覚悟しやがれってんだ!」


「ほう、覚悟しておけばいいんじゃな。了解したわい、よし覚悟完了じゃ」

 

「「「…………へ?」」」


 盗賊一同、隣から聞こえてきた声に固まります。


「ところでその作戦っての、俺らにも教えてくれねえかあ……?」


 そこには追っていたはずの獲物が二人。彼らと肩を並べて立っていました。

 突如現れたボーゼとトリーに、盗賊団は飛び上がらんばかりに驚きます。


「て、てめぇら何でここに! いつの間に!?」


「大岩の方に行ってたはずじゃ!」


「チッ、構わねえ! わざわざ向かってきてくれるたぁ好都合だ! やっちまえや野郎共!」


 しかしそこは腐っても盗賊。各々、即座に思考を切り替えて、得物を手に二人に襲い掛かりました。


 そして数分後。


「「「た、助けてくれえ!」」」


「待たんかいこのコソ泥ども!」

「逃げられると思ってんのかぁ!?」


 あれ、襲う方と襲われる方、逆転してません?




 さてさて場面は変わり。

 盗賊団の妙案とは、一体何なのでしょう?


 ボーゼとトリーが盗賊達と遭遇する、少し前に戻ります。

 そこは薄暗いテントの中、盗品と思われる金品や武器などが積まれています。そう、まぎれもなく盗賊団のアジトでした。


 入り口になっている幕を大きく開けて、黒須くん一行を襲った先遣隊が慌てて駆け込んできます。


「ゴ、ゴッゾさん!」


「あいつら、俺達だけじゃ手に負えねえです!」


 ゴッゾと呼ばれた、テント内の半分くらいを埋めそうな筋骨隆々の大男が振り返ります。


「これはこれは、お早いお帰りですねぇ。それで、手に負えない? 我らが『トラソル一味』ともあろう者が、何とも情けないことを言うようになったじゃないですか」


「ヒ、ヒャッハー! 面目ありません! しかし奴ら、何か変な魔術を使いやがるし、逃げ足もとんでもなく速くて、チョルボの脚でも追いつけないんでさぁ!」


「……なるほど。どうやら、ただの冒険者、という訳ではないという事ですか。これだけ人数を割いてまだ捕まらないとなると、少々厄介ですね。困りました」


 先遣隊とは別に、逃げた時のことも考え人員を配置していたにも関わらず、何一つ良い知らせが入ってこないということは、かなりの実力者であるということ。

 見た目の割にインテリなゴッゾは、どうしたものかと頭を捻ります。

 というかこの人たちが乗っていた巨大鳥、チョルボって言うんですね。……ぎりぎりセーフです。


 そうして騒いでいると、二つ繋がったテントの奥の方から、別の声が聞こえてきました。


「どいつもこいつも情けねえな、とんだ役立たずじゃねえか! えぇ? 俺様の可愛い兄弟どもよ!」


「お、お頭!」


「俺様のことは首領ドンって呼べっつったよなぁ!?」


 鈍い音が、お頭と呼んだ下っ端の頭から響きます。


「首領、お目覚めでしたか」


「おうよゴッゾ。俺様の家族がてんで役に立ってねえと聞いてな。それじゃあ朝も眠れやしねえ」


「……それ普通じゃね?」


「首領の寝つきの良さ立派なもんだからなあ」


「寝床に入ってから寝るまでが同時だもんな」


 再び響く鈍い音。今度は三回、さっきより強めに。


「それで首領、何か策が?」


 うずくまる部下たちをまるっと無視して、ゴッゾが問いかけます。


「ん? ああ、あの、三日前からこの辺をちょろちょろしてる冒険者どものことだろ?」


「ええ。どうやら彼等は、ミズヴァルを目指しているようですね。今は二人ずつ、三つの方向に逃げていると報告が入ってきています」


「へ、へい! 黒い頭のガキと、赤い武器を持った奴は逃げ回っているようで!」


「エルフの男と魔術師の女は魔術の扱いに長けているようで、手が出ねえです!」


「もう一組の剣士と斧使いのドワーフは、大岩の方へ真っ直ぐ向かって止めらんねえ!」


 たんこぶをこしらえた下っ端たちは、それぞれ自分達のチームが追いかけて得た情報を首領に報告します。


「はあん、成程なあ………………、よし。大岩を目指している二人はそのまま放置だ。他に目立つもんもねえし、多分そこが合流地点とみた。だったら仲間が集合するまで、早々動きもしねえだろう。見張りでも付けとけ。そんでエルフと魔術師の方には、そうだな……『ゴンちゃん』に襲わさせろ!」


 ゴンちゃん、という言葉が出た瞬間、下っ端三人の身体がびくっと跳ねました。垂直に三十センチほど。

 冷静なようでゴッゾも目線が泳ぎまくっています


「ヒャ!?」


「ゴ、ゴンちゃんをですかい!?」


「け、けど、ゴンちゃんは首領の言うことしか聞きませんぜ!」


「いいから、言われた通りにしな! なぁに、あいつもお前らも、俺様の大事な家族だ! 仲良くやれば大丈夫よ!」


 大丈夫と言われた家族たちの顔色が大丈夫ではありません。真っ青になってます。


「まあ確かに、有効ではあるでしょうですが……。でしたら、残りの子供と赤い騎士はどうするおつもりですか、首領?」


「あぁん? あー……逃げ回ってるとこ見ると、一番弱ぇ気がするなあ……」


 実際は強すぎるから逃げているのですけどね。そんな事情を露も知らず、盗賊団の首領は頭を捻ります。


 そして頭に電球が光りました。

 何かを思い付いたようですね。


「かーかっかっか! 良いこと思い付いたぜ! なに、全部この俺様に任せな! この『首領ドン・トラソル』様にな!」


「ヒャッハー! さっすが俺達の首領!」


「頼りになるぜ首領!」


「そこに痺れて憧れるぜ首領!」


「かーっかっかっか! よーし、行くぜ野郎ども!」


 高笑いする首領に、はやし立てる下っ端たち。テント内には彼らの声が響き渡ります。


 そんな愉快な仲間達を見て、本当に大丈夫なのか、と少し不安になる幹部のゴッゾさんでした。

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