第16話 「語りて二人」

 黒須くんとレイナが不毛な鬼ごっこをしている時、一方その他の方々。


 おや、砂埃に塗れたハーディとデューカの姿が見えてきました。

 今二人は、丁度荒野と森の境目にあたる部分に差し掛かったところです。


 ばさばさとローブについた砂をはたいて落とし、一息ついて彼等は森を進みだしました。


 荒野と違い緑の自然が一気に増えたそこは、目にも優しく心にも優しく、二人は深呼吸しながら休息を取るようにゆっくりと歩いていきます。


「この森を抜けてしまえば合流地点まではもうすぐよ、ハーディちゃん。……野盗は今のところこっちには来てないみたいね。レイナ達、大丈夫かしら」


「え、ええ、クロノス達なら大丈夫だと思います。多分、あの二人が一番強いだろうし……」


「それはそうなんだけどねぇ、あの子、一人になるといつも迷子になっちゃうのよ。ま、今は心配しても仕方ないか……。私たちはゆっくり目指しましょう」


 後方を警戒しながらも、ゆったりとした足取りで悠々と進むデューカとトリー。

 荒野を南側から囲むように広がる森は、それほどの規模ではありません。二人が進んだ方向は最も森に近く、そこを突っ切って街へと向かうルートです。

 

 荒野と違って森に住まう獣やモンスターという脅威が、襲い来る危険性の高い場所です。しかし、荒野での戦闘で、ここらのモンスターが大した脅威にならない事は把握している二人に大した緊張などありませんでした。


 軽やかに森を進むデューカに対し、ハーディはどこか元気がないように見えます。


「どうかしたの? ハーディちゃん」


「あ、いえ……その、デューカさんは気にしてないんですか? 今のボクらの体のこととか、ダンジョン主のこととか……」


 デューカと二人きりになったことで、改めて今までのことを振り返るハーディ。少し思うことがあったのか、暗い表情で思い詰めた様子です。そんな彼を見て、デューカはくすりと微笑みました。


 彼女にはハーディの考えていることが手に取るように分かるようです。


「うふふふ。もしかして私を押し倒したこと、気にしてる? 可愛いところあるのね」


「押し倒s……!? い、いや、あの、…………はい。デューカさんを襲ってしまったのは、ボクだし……もし、元の身体に戻れなかったら……」


「気にしすぎよ」


 真剣な顔で断言する魔法使い。その声にハーディははっと顔を上げます。


「アナタだって、クロノスちゃんに襲われたのでしょう? それに私だって、ボーゼさんやレイナを襲っちゃったしね。あの時は体が勝手に動いて、自分の意思じゃどうしようもなかった。きっと、アナタもそうだったんでしょう?」


「で、でも」


「気にしないで、っていうのは無理な話かもしれないわね。私だって、気にしていないわけじゃないの。でも、今するべきはアナタやクロノスちゃんを責めることでも、自分の運命を悲しむことでもないの」


毅然とした態度ではっきりと言い切るデューカに、ハーディは言葉が紡げません。


「…………」


「アナタが、私達のことを考えてくれるのはとっても素敵なことよ? でも自分を責めるより、過去の事より未来の事を考えないとね」


「……はい、ありがとうございます」


 それしか言うことが見当たらないような表情で、ハーディは感謝の言葉を伝えます。


 少しの間心地よい無言が二人を包み、何ともいい雰囲気になりそうになったその時。


「こんな所に居やがったか! やっと見つけたぜ!」


「ヒャッハー! 逃げ切れると思ったか!」


世紀末的な人たちが登場です。


「! デューカさん!」

 

「もう、ちょっと良い話してたのにね。無粋な人達」


 剣を抜こうとするハーディですが、その手をデューカがそっと押さえます。


「え?」


「逃げるのが目的でしょ? だったらこれくらいでいいわ。――うなえ《地爆じばく》」

 

「ギャハハハハ! 死なねえ程度に痛めつけ、あべしっ!」


「ひでぶっ!」


 デューカが軽く杖を振るって短い詠唱を唱えると、野盗の足元が膨らんで爆発しました。

 人間であった時よりも素早い魔術の構築と詠唱に、当然野盗たちは反応できず華麗に宙を舞います。


 「なんと何とか拳」を食らった暴漢のような悲鳴を上げながら吹き飛ぶ野盗たち。 


「さ、行きましょう。ああ、それと私の事は呼び捨てでいいわよ、敬語もいらないわ。エルフなんだから見た目と違って私より年は上なんでしょう?」


「あ、えっと、分かりまし……分かったよ、デューカ!」


 走りながらも軽い魔術を追い打ちで放っているデューカさん。野盗たちの方を見もせずに放つその爆発は、バスケットボールのような空中コンボを彼等に味あわせています。


「ところで、君はいくつ……」


 ハーディの疑問は、素敵な笑顔と一際大きな爆発にかき消されました。


「ふふ、レディに年を聞くなんてマナーがなってないのね、ハーディ? ねえ?」

 

「あ、ああ……気を、付けます……」


 余裕癪尺と言った様子の二人ですね。


 ではまた別の視点へとカメラを切り替えましょう。現場の視点主さーん?

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