第15話 「颯爽登場! トラソル盗賊団」

 そして三日という時間が流れました。


「もう三日も歩いたよ……町にはどれくらいで着くの?」


 非常に疲れた足取りで進む黒須くん。


「ニヴルからミズヴァルの街まではあと一日くらいじゃな」


「街からダンジョンまでがこんなに遠いなんて、知らなかったな……」


「ダンジョンは街から離れた場所にあることが多いからなー。転移魔法を使う金がなかった時は大変だったぜ」


 黒須くんと同じように疲れてはいるみたいですが、割と元気な男三人。


「……無駄口叩いてないでさっさと進みなさいよ……はぁ……」


「…………」


 溜息を吐きながら疲れましたオーラ全開でとぼとぼ進むデューカに、レイナが無言無無表情で並んでいます。どっちも疲れが目に見えて出ていました。


 ダンジョンを出てから三日、荒野をひたすら進む彼等は肉体的な疲労よりも精神的な疲労が溜まっていました。代わり映えのない行程に、食べられるモンスターを狩って作る原始的な食事。水だけは報酬のアイテムで手に入るから心配はないのですが。


 途中に綺麗な池があり、その周辺に自然があったことからそれなりに目的地に近付いてはいるのでしょうが、それでも三日歩き通しというのは疲れて当然でしょう。


「まあ今日中に、街の手前にある『ミズヴァル大岩』まで行けるじゃろう。明日までの辛抱じゃ、ほれ進め進め」


 一番体力のあるボーゼが快活な足取りで先導します。


 そうは言っても、しんどいのに変わりはなく、黒須くんは少々うんざりしながらチームの一番後方で歩を進めていました。


 ――何でもいいから変化とか起きないかなあ。雨とかでもいいんだけど。


 そんなことを考えながら進んでいると、待ち望んでいた変化が起こるのでした。


 丁度広がっていた道が合流し、谷合となって荒野を下る入り口、そこを抜けてしまえば森が見え、ミズヴァルの大岩は目前といった場所。


 その谷の入り口付近が爆発し、岩壁が崩れて道を塞いでしまいます。 


 一度荷物を降ろして休憩していた一行は、何の前触れもなく突如おこったそれにぽかんと口を開けています。


 そして爆発を起こした張本人らが姿を現しました。

 

「おいおいおい! てめぇら誰に許可とってここを通ろうってんだ!?」


「ここは俺達『トラソル盗賊団』の縄張りだ! 生きて帰りたきゃ荷物を全部置いていきな!」


「安心しな! 金目のものは綺麗に高く売り捌いてやるからよ!」


 何が面白いのか下品な笑い声をあげる爆発を起こした張本人。しかし、その姿は爆発によって出来た砂埃で隠れており、無駄に響く声だけが黒須くん達に届きます。


 一応襲撃ということになるのでしょうが、いまいち緊張感が持てない六人でした。


 そして笑い声が収まると同時に、彼らの前に襲撃者が姿をようやく現します。


「わぁ、でっかい鳥だね。ゲームで見たのにそっくりだ」


「お主案外肝が据わっとるのう、クロノス……げーむ?」


 黒須くんの言う通り、そこには人が乗ったでっかい鳥が十羽くらいいました。ダチョウのように脚が長く、羽は短め。姿形は黒須くんの言う通り、ある作品に登場する黄色い毛並みの騎乗鳥に似ています。


「何だあいつらは、知っているか? ボーゼ」


「あー、多分この辺り一帯を縄張りにしとる野盗じゃろう。最近ちらほら名を聞くくらいには、知れた存在のようじゃ」

 

 ちなみにこの間、黒須くんたちは全員腰を下ろしたままです。余裕も余裕。しかし、それを見た盗賊団が憤るということはなく、むしろ喜色に満ちていました。


 その理由は、彼等が腰を下ろした傍に置いてある大きめの袋。その口から覗く、宝石や金といった財宝の輝きでした。報酬部屋からあるだけ毟り取ってきたそれは、盗賊団が目の色を変えるに相応しい価値をもっています。


 当然、盗賊団は血気盛んに武器を抜き放ち、宝を奪う為に迫ってきました。


「ふん、野盗風情が大層なことだな。だが何も関係ない。私ひとりで十分だ」

 

 そしてこちらも新しい武器を試したくて仕方がないとばかりに、槍を構えて戦闘準備を始めるレイナ。早くも瘴気が身を纏いつつあります。

 自分の装備すら溶かしていたそれも、今や彼女は完全にコントロールしていました。


 しかし、獰猛な笑みを浮かべたレイナを止める人がいます。


「ま、待ってレイナさん! 人殺しは駄目だよ!」


 飛び付くようにして立ち塞がった黒須くん。ちょっと体が震えています。


「な、いや! 殺すつもりはないぞ!」


「殺すつもりなくても人間相手に手加減出来るかも分からないし、暴走したらおしまいよ? あなた、ダンジョンの中で一番暴走してたじゃない」

 

「くっ、いや……そんなことは」


 痛いところを突かれて黙ってしまうレイナ。


 ですがそんな複雑な事情など、盗賊には関係ありません。


「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」


「ってか、いつまで座ってんだゴラァ! 舐めてんのかぁ!?」


 あっという間に黒須くん達は盗賊団に囲まれてしまいました。そうなって彼等はようやく腰を上げ、荷物も持ちあげます。


「やる気満々だなあ、おい」


「ど、どうしようか。人との戦闘なんて想定してないよ!」


 こうなっても未だに武器すら構えない黒須くん達に、盗賊団も段々とイライラが募ってきたようです。どうも穏やかではありません。いえ、穏やかである筈もないのですが。


「ふむ、仕方がないのう。こうなれば、するべきことは決まっておるな」


 ボーゼがそう言うと、盗賊たちにも緊張が走ります。あれだけの財宝を抱えた冒険者、その実力も見合ったものである筈。


「お、おああ!? 何する気だてめーら! 大人しくしやがれや!」

 

「何をする? ……そうさのぉ」


 思わせ振りに辺りを睥睨するボーゼに、盗賊団が一瞬怯みます。そして、


「逃げるんじゃよぉ! ほれ、皆も続けい!」


「なっ!?」


 両手斧を地面に叩きつけ石礫を飛ばすと同時に、迷いなく走り出しました。何も言わずとも阿吽の呼吸でトリーが並走しています。

あまりに綺麗な逃走に、盗賊団は反応が出来ません。


「なるほどな……そういうことなら承知した」


 レイナも一瞬でボーゼの行動を把握し、周囲を囲う悪漢どもに炎の瘴気を放ちました。当てるつもりのない炎ですが、威嚇には十分です。


「ふふ、レイナったらノリノリねえ。ほら、あなたたちも行くわよ!」


「わ、わわ」


「何でこうなるのかなぁ……」


 ボーゼが作り出した逃げ道から走り去る六人。盗賊たちはその姿を捉えながらも、追いかけることが出来ません。


「くそ! 何なんだこいつら!」


「逃がすな! せっかくの上玉だぞ!」


 距離をとった黒須くん達ですが、同じ方向に逃げる様子ではありません。


「ここは一旦分かれて行くとしよう! あやつら数だけは結構おるらしい、固まって逃げるのは得策ではあるまい」


 一気に多数を引きつけてしまえば、戦わずに逃げる事が難しくなるかもしれないと判断したボーゼが指示を出します。


「各々敵を撒いて、街の手前の大岩で合流じゃ! ではまた後でな!」


「気をつけろよ! 皆!」


ボーゼとトリーは爆破された岩の跡を飛び越えて行きました。


「普段なら蹴散らすんだけど、逆の意味で厄介ねえ。ハーディちゃん、私達はこっちに逃げましょう! レイナ、くれぐれも気を付けてね!」


「あ、ああ! 分かりました! クロノス、襲ったらダメだからな!」


 デューカとトリーは右方向真っ先に森へと入る方向へと向かいます。それにしても、心配する事柄が普通とは逆ではないでしょうか。


「承知した! では、我々はこっちだな、行くぞ!」


「は、はい! よろしくお願いします!」


黒須くんとレイナは左方向、比較的起伏の少ない大地へと壁を飛び越えて行きました。


盗賊たちが乗っている巨大鳥の機動性でもない限り、この岩場を走って逃げるなど不可能なはずでした。しかし彼らにはゾンビパワーがあります、普通の人間と考えるのは間違いなのです。


そして盗賊たちはその光景に度肝を抜かれていましたが、すぐに切り替えて黒須くん達を追いかけ始めます。

「「「ま、待ちやがれえ!!」」」


こうして別れることになった黒須くん一行。しかし、そう全てが順調に行く筈もなく――。




「…………まさかレイナさんが、集合場所を知らないなんて」


「し、仕方がないだろう! 道なんてややこしいものいちいち覚えていられるか! とにかく街を目指せばいいのだろう! だったら大丈夫だ!」


「その街がどっちか分からないんでしょう!」


「おいこら待てやぁ! 逃げきれると思うんじゃねえぞ!」


「まさか道が分からない間抜けがいたとはなあ! ざまあねえぜ!」


「やかましい!」

 

 さてさて、黒須くんとレイナは無事に他の皆と集合できるのでしょうか。

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